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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1904号 判決 2000年12月21日

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件控訴人・同年(ネ)第一九〇五号事件被控訴人・附帯被控訴人

甲野太郎

(以下「第一審原告甲野」という。)

右訴訟代理人弁護士

豊島時夫

道下徹

齋藤護

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件控訴人

乙川次郎

(以下「第一審原告乙川」という。)

右訴訟代理人弁護士

道下徹

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人

愛媛県

(以下「第一審被告愛媛県」という。)

右代表者知事

加戸守行

右訴訟代理人弁護士

村田建一

右指定代理人

桝岡奉之

外五名

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人

(以下「第一審被告国」という。)

右代表者法務大臣

高村正彦

右指定代理人

黒田純江

外二名

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人・附帯控訴人

株式会社毎日新聞社

(以下「第一審被告毎日新聞」という。)

右代表者代表取締役

斎藤明

右訴訟代理人弁護士

髙木茂太市

佐藤泰弘

里井義昇

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人

株式会社産業経済新聞社

(以下「第一審被告産経新聞」という。)

右代表者代表取締役

清原武彦

右訴訟代理人弁護士

渡邊俶治

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人・同年(ネ)第一九〇五号事件控訴人

株式会社大阪新聞社

(以下「第一審被告大阪新聞」という。)

右代表者代表取締役

辻本幸夫

右訴訟代理人弁護士

中川清孝

伊藤寛

平成一一年(ネ)第一九〇四号事件被控訴人

丙山三郎

(以下「第一審被告丙山」という。)

右訴訟代理人弁護士

米田功

市川武志

大熊伸定

主文

一  第一審原告ら及び第一審被告大阪新聞の本件各控訴をいずれも棄却する。

二  第一審被告毎日新聞の本件附帯控訴を棄却する。

三  平成一一年(ネ)第一九〇四号事件の控訴費用は第一審原告らの、同年(ネ)第一九〇五号事件の控訴費用は第一審被告大阪新聞の、同年(ネ)第二四二六号事件の附帯控訴費用は第一審被告毎日新聞の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  平成一一年(ネ)第一九〇四号事件

1  控訴の趣旨(第一審原告ら)

(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 第一審被告らは、第一審原告甲野に対し、連帯して五六〇〇万円及びこれに対する平成元年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(二一〇〇万円及びこれに対する平成元年四月二日から支払済みまで年五分の割合の金員を超える請求は、当審で拡張した請求である。)。

(三) 第一審被告愛媛県は、第一審原告乙川に対し、九〇万円及びこれに対する平成四年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(五) (二)、(三)項につき仮執行宣言

2  控訴の趣旨に対する答弁(第一審被告ら)

(一) 第一審原告らの本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告らの負担とする。

二  平成一一年(ネ)第一九〇五号事件

1  控訴の趣旨(第一審被告大阪新聞)

(一) 原判決中、第一審被告大阪新聞敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審原告甲野の第一審被告大阪新聞に対する請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告甲野の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁(第一審原告甲野)

(一) 第一審被告大阪新聞の本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審被告大阪新聞の負担とする。

三  平成一一年(ネ)第二四二六号事件

1  附帯控訴の趣旨(第一審被告毎日新聞)

(一) 原判決中、第一審被告毎日新聞敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審原告甲野の第一審被告毎日新聞に対する請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告甲野の負担とする。

2  附帯控訴の趣旨に対する答弁(第一審原告甲野)

(一) 第一審被告毎日新聞の本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は第一審被告毎日新聞の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり原判決を補正する他は、原判決「事実」の「第二 当事者の主張」欄(八頁初行から八〇頁一二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(なお、第一審原告らは、原判決の事実摘示について縷々主張するが、判決の事実摘示は、当事者の主張をすべて記載する必要はなく、請求を明らかにし、かつ、主文が正当であることを示すのに必要な主張を要約整理して摘示すれば足りるから〔民訴法二五三条二項〕、第一審原告らの指摘は、必ずしも当を得ない点もあるが、当裁判所は、明らかに補正する必要がないと判断するものを除き、第一審原告らの主張に沿って必要な限度で原判決を補正することとする。また、当事者双方の当審における主張の多くは、証拠評価を中心にして原判決の認定判断について主張するものであるから、新たな主張等により原判決の事実摘示を補正した点を除き、理由中で判断を示す際に適宜摘示する。)。

一  八頁三行目の「1」の次に「(一)」を、一〇行目末尾の次に「なお、本件殺人事件に先立つ同月初旬ころ、松山市食場町所在の小倉火薬株式会社倉庫二棟の屋根を破り、巧みに防犯警報装置の隙をくぐってダイナマイト約一五〇本及び電気雷管約二〇〇個が盗取される事件が発生し(以下「本件窃盗事件」という。)、右紙箱に設置されていたダイナマイトは、右事件により盗取されたダイナマイト及び電気雷管を使用して作成されたものと見られていた。」を各付加し、一一行目を削除し、一二行目の「(一)」を「(二)」と訂正する。

二  九頁五行目の「原告甲野太郎」から六行目の「いう。)」までを、「○○タクシー有限会社(以下「○○タクシー」という。)の取締役(昭和六三年二月二六日就任)で同社の経営者であった第一審原告甲野が、かつて○○タクシー」と訂正する。

三  一〇頁六行目の「同日」を「昭和六三年一二月一八日」と訂正し、九行目末尾の次に「なお、Fも、第一審原告甲野の共犯者として、右有印私文書偽造罪等により逮捕、勾留された後、釈放された。」を付加し、一二行目末尾の「いう。)。」を「いい、本件公訴提起に係る刑事公判を以下「刑事公判」という。)。なお、Fは、右被疑事実につき起訴猶予処分となった。」と訂正し、同行の次に改行して次のとおり付加する。

「(4) 県警は、本件殺人事件及び本件窃盗事件の真犯人であるC(以下「C」という。)に対しては極秘裡に捜査を進め、任意の取調べやポリグラフ検査を行った他、第一審原告甲野を起訴した翌日の平成元年一月一四日にはC宅に赴き、ペンチ等道具類の任意提出を得た上、同年二月一九日、Cを別件の窃盗事件の容疑で秘かに逮捕し、同事件及び本件殺人事件等について取り調べ、Cの自供により残存ダイナマイト等を発見した直後の同年三月三日、その旨各報道機関に発表した。

2 第一審被告愛媛県に対する請求

(一)  県警の警察官らは、本件殺人事件の捜査の過程で、以下のとおり、一見して明白な違法行為を行った。」

四  一二頁四行目の「負っていた。」の次に「すなわち、あらゆる角度から尋問し、その裏付けを取れば、任意の取調べによっても、第一審原告甲野のアリバイやダイナマイト盗取技術、電気知識、紙箱爆弾製造能力等の有無、ひいては第一審原告甲野が本件殺人事件や本件窃盗事件に関係がないことが自ずから明らかとなる蓋然性が高かったというべきである。」を、五行目の「県警は、」の次に「第一審原告甲野を容疑者としていることを否定してまで任意の取調べを拒否し、」を各付加し、一〇行目の「甲野」を「第一審原告甲野」と訂正する。

五  一三頁初行の「なかったこと、」から九行目末尾までを「なく、しかも、第一審原告甲野は、従前はD(以下「D」という。)のことを隠すため当時の行動について事実と違うことを言っていた旨説明していることに照らすと、第一審原告甲野にはアリバイがあったか少なくともアリバイがないとの疑念を持てない状況であり、このことを県警は知っていたこと、紙箱爆弾を第一審被告丙山宅車庫に駐車中の自動車のボンネット上に置くという犯行方法からして、本件殺人事件は、同人に恨みを持つ者の犯行であるが、第一審原告甲野が第一審被告丙山を恨む理由がなかったこと、県警は、本件殺人事件発生当時、第一審原告甲野が第一審被告丙山に対し、保証債務を含めて計四七〇〇万円の負債を負っていたことだけをもって、不十分ながら犯行の動機ありと判断したが、①右借財は犯行の動機として十分なものでないと県警自身が判断していたこと、②第一審原告甲野が第一審被告丙山に対する債務を返せない場合、第一審被告丙山に○○タクシーの出資持分権を売却することにより、第一審原告甲野は、債務を差し引いた売却代金を入手できる状態にあったこと、③第一審被告丙山が死亡すれば、同人の遺族が右出資持分権を買い取る可能性が少なくなり、第一審原告甲野が困ることになること、④第一審被告丙山が死亡しても、右債務については、公正証書等の証拠があり、第一審原告甲野にとって何の利益にもならないこと、⑤第一審原告甲野が右借財のため犯行に及ぶのであれば、第一審被告丙山が必ず死亡する方法をとる必要があるのに、本件殺害方法は前述のとおりであって同人が必ず死亡する方法ではないこと、⑥第一審原告甲野は、本件殺人事件当時、○○タクシーを経営し、月額一〇〇万円の報酬を得ていた他、○○タクシーの利益を不当に約六年間利得していたE(以下「E」という。)に対し、約一億円の支払請求訴訟を提起する予定であったから、経済面上犯行を企てる可能性がないこと等に鑑みると、第一審原告甲野には犯行を企てる動機がなかったこと、本件殺人事件の犯人となり得る者は、紙箱爆弾の製造能力やこれに使用されたダイナマイト等を火薬庫から盗取する能力が必要であり、電気及び爆発物についての知識を有し、かつ、手先が器用で道具類の使用が巧みな者に限られるところ、第一審原告甲野には、このような能力はなく、その周辺にも右能力を有する人物は存在しなかったこと、第一審原告甲野にはダイナマイトを使用した本件殺人事件の犯行能力がなかったこと、第一審原告甲野は、自己を犯人扱いとする取材行動をしていた報道関係者に抗議し、第一審原告甲野の写真を撮影した報道関係者を県警に連れていく等真犯人であれば通常とれないような行動をとっていたこと等について、県警において十分認識していたか、任意捜査をすれば十分に認識可能の事実であったのにこれをしなかったため、第一審原告甲野を本件殺人事件等の最重要容疑者に選任した違法がある。また、本件殺人事件の真犯人であるCは、電気に関する知識が豊富で、手先も非常に器用であり、いろいろな道具類も所持している上、自衛隊にもいたことなどから、ダイナマイト盗取や紙箱爆弾を製造する能力がある他、本件殺人事件発生当時は経済的にも困窮し、妻とも離婚していたのみならず、自分の生活破綻は第一審被告丙山に原因があるとして遺恨を抱き、同人に脅迫電話をかけていた実績があったこと、一方、県警の鑑識は、本件殺人事件現場及び被害者の体内等から発見された物証を綿密に検討中であったから、その結果を待って物証により最重要容疑者を選定すべきであり、現に県警は、第一審原告甲野が本件被疑事実で起訴された翌日の平成元年一月一四日、C宅へ赴き、ペンチ等多数の道具類の任意提出を受け、これによりCが犯人である物証を得ていること、県警は、Cのアリバイに空白の時間があることを知っていたこと等から、最初から第一審原告甲野よりもCを最重要容疑者に選定すべきであったことは、一見して明らかである。」と訂正する。

六  一五頁八行目の「原告甲野」の前に「FとEとの間の契約書(甲第六号証)において、昭和五七年二月二四日以前の○○タクシーの債務については、Fらが一切の責任を負い、E側は責任を負わない旨の約定がされているところ、Fは、かねて第一審原告甲野に対し、右契約書の内容を説明していたから、第一審原告甲野は、仮に、勝訴しても、○○タクシーから金を取れば、Fがその責任を負うことになることを承知していた上、Fには迷惑をかけないと確約していたので、」を付加し、一一行目の「E(以下「E」という。)」を削除し、末行の次に「なお、第一審原告甲野に金員詐取の意図がなかったことは、第一審原告甲野が本件貸金訴訟の提起をG弁護士に依頼して着手金二〇万円を支払った帰途、同行していたFに二〇万円は捨て金であると嘆いていたことからも明らかである。また、第一審原告甲野及びFは、いずれ近いうちに○○タクシーの経営権をめぐってEらと争っていた訴訟(第一審・松山地方裁判所昭和五七年(ワ)第二〇三号事件・以下「社員権訴訟」という。)で○○タクシーの経営権がFに帰ってくると確信していたから、同社から金員を取っても、右両名にとっては何の利益にもならないし、仮に、裁判で負ける可能性があるとするなら、示談でEから金員の支払を受けられる状況にあったから、第一審原告甲野が訴訟提起によって金員を詐取する理由も必要もなく、したがって本罪の成立しないことは明白であり、これらのことは、県警においても分かっていた。」を付加する。

七  一六頁一二行目から一三行目にかけての「対立してた」を「対立していた」と訂正する。

八  一九頁一二行目の「存したのであり、」の次に「とりわけ第一審原告甲野に本件殺人事件についてアリバイがあり、県警において、第一審原告甲野が犯人でないことを確認し得ていたのであるから、」を付加する。

九  二一頁末行の「予想される」の次に「ので、被疑者両名の身柄拘束が必要である。」を付加し、二六頁一一行目の「原告甲野甲野」を「第一審原告甲野」と訂正する。

一〇  二八頁六行目の「D(以下「D」という。)」を「D」と、一一行目の「ポリクラフ」を「ポリグラフ」と各訂正する。

一一  三〇頁六行目の「あった。」の次に「しかも、県警が第一審原告甲野を逮捕するまでに、同人に本件殺人事件の犯人であるとの嫌疑をかける合理的理由はなかった。」を付加する。

一二  三一頁末行の次に改行して次のとおり付加する。

「 (一四) 本件逮捕状執行の違法

仮に、本件逮捕状の発付を受けたのが適法であったとしても、第一審原告甲野を正当な理由もないのに真犯人視する県警が殊更マスコミに情報を漏洩ないし提供したことにより、県警の情報を信じたマスコミは、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人と思い込んでいた。

したがって、一般事件の検挙を差し控えるのが通常である年末も押しせまった一二月一九日に逮捕すれば、県警が本件被疑事実によって逮捕した旨発表しても、マスコミは大々的に、本件殺人事件を本件とし、本件被疑事実を別件とする被疑者として第一審原告甲野を逮捕した旨一斉に報道することは必至の情勢であった上、第一審原告甲野を逮捕した当日現在において、第一審原告甲野には、本件殺人事件のアリバイが認められており、第一審原告甲野が同事件の犯人と疑うに足りる証拠はなかったのであるから、本件逮捕はこれを差し控えるべき義務があったのに、これに違反して逮捕した違法がある。」

一三  三二頁七行目の「あるから、」の次に「本件殺人事件に関し全く行っていない任意の取調べを早急に行ってアリバイを含む証拠を収集させ、証拠に基づき本件殺人事件について第一審原告甲野の容疑の有無を判断すべき積極的な義務があり、容疑がないと判断すれば、」を付加し、末行から三三頁初行の「本件被疑事実による原告甲野の逮捕を許容した。」を「人権侵害の伴うことの明らかな本件被疑事実による第一審原告甲野の逮捕を許容した明白な違法がある。」と訂正する。

一四  三三頁五行目の「本件逮捕」から七行目の「ならなかった。」までを「本件逮捕は別件逮捕であるところ、別件逮捕は、被疑者と疑うに足りる合理的な根拠や証拠があることが絶対に必要な前提要件であるのに、本件では右前提要件がないから違法な逮捕であり、違法な逮捕に基づく本件勾留請求は、それだけで違法がある上、検察官は、右前提要件がないことを知っていたから、本件殺人事件の捜査を究極の目的とする勾留請求をしてはならなかった。」と訂正する。

一五  三四頁三行目の「あり、」の次に「これにより犯行の動機につき、昭和五九年九月中旬ころFから裁判所書記官からの話として敗訴するおそれがある旨聞かされたことにあると捏造する等」を付加する。

一六  三七頁九行目の次に改行して次のとおり付加する。

「(1) 検察官が被疑事実につき公訴を提起する際には、まず十分な捜査を尽くして被疑事実につき犯罪が成立する確実な証拠があること、犯罪を阻却する事由がないことを確認するとともに、被疑事実につき可罰性があり、起訴猶予処分に付すべき相当な理由がないことをも確認する必要がある。そして、可罰性及び起訴猶予処分の判断については、被疑事実を捜査した動機の公正や妥当性の有無、その捜査によって被疑者らに与えた人権侵害の有無、程度等を考慮すべきである。

また、公訴を提起する権限が検察官のみに与えられた趣旨に鑑み、いやしくも不正、不当な目的で公訴権を濫用してはならないことはいうまでもない。

しかるに、本件公訴の提起は、右検察官の当然なすべき義務のすべてに違反してなされたもので、検察官の公訴権濫用の程度は甚だしく、免訴又は公訴棄却を相当とする極限的場合に該当する違法がある。以下、その理由を具体的に述べる。」

一七  三七頁一〇行目の「(1)」を「(2)」と、三八頁二行目の「(2)」を「(3)」と各訂正する。

一八  四二頁四行目の次に改行して次のとおり付加する。

「 (二) 第一審被告産経新聞は、その発行にかかる日刊紙「産経新聞」で、前記(一)の夕刊紙配布地域以外の松山市等の地域に頒布するため発行した昭和六三年一二月二〇日付け新聞に、本件被疑事件について、次の(1)ないし(4)までを含む記事及び写真(以下「本件記事(二)の2」という。)を掲載した。

(1)  最上段に横書きで『松山の紙箱爆弾事件』。次段に横書きで『被害者と金銭トラブル』の大見出し(以下「本件記事(二)の2記載部分(1)」という。)

(2)  『有印私文書偽造などで』、『タクシー会社社長ら2人逮捕』の縦書きの中見出し(以下「本件記事(二)の2記載部分(2)」という。)

(3)  本件記事(二)記載部分(3)と同じ(以下「本件記事(二)の2記載部分(3)」という。)

(4)  縦九センチメートル、横一〇センチメートルの大きさで『有限会社○○タクシー』の看板を掲げている同社の社屋兼ガレージの中に自動車二台が入っている写真とその下部に横書きで『甲野が社長を務めている〔○○タクシー〕=松山市末町甲で』と説明文を付加したもの(以下「本件記事(二)の2記載部分(4)」という。)」

一九  四二頁五行目の「(二)」を「(三)」と訂正し、九行目の次に改行して次のとおり付加する。

「また、本件記事(二)の2は、最上段に『松山の紙箱爆弾事件』とのみ記載した大見出しであるから、読者をして、まず第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であることを更に強烈に印象付けるものであり、その他の記事も本件殺人事件の説明から始まるものであり、特に逮捕された者の自宅とか、経営する会社の社屋等の写真まで掲載するのは、よほど大事件の場合で、その事件の犯人であることがはっきりしているときに限られているのが通常であるから、この写真まで掲載した報道は、読者をして第一審原告甲野が間違いなく本件殺人事件の真犯人であると思わせるものである。したがって、本件記事(二)の2記載部分(1)ないし(4)も、第一審原告甲野の名誉及び信用を毀損する記事である。」

二〇  四二頁一二行目の「二〇日」の次に「付け」を付加する。

二一  四五頁一〇行目の「原告」を「第一審原告甲野」と、一二行目の「できるから、」を「でき、」と、四六頁三行目の「売却」を「売買」と各訂正する。

二二  四八頁一一行目の「かかわらず、」の次に「右債務の返済資金を低利で調達することができない状態のまま」を付加する。

二三  四九頁三行目の「締結し」を「締結することを余儀なくされ」と訂正する。

二四  五〇頁六行目の「取得しよう」の次に「と」を付加し、一一行目の「とおりの違法な捜査」を「とおり(前記付加、訂正部分を含む。)の違法な捜査及び処理(公訴提起)」と訂正する。

二五  五一頁八行目の「損書」を「損害」と、五二頁五行目の及び九行目の各「原告」を「第一審原告甲野」と各訂正する。

二六  五三頁五行目の「(ただし、」から六行目の「解する。)」までを削除する。

二七  五六頁三行目の「請求原因1の事実は認める。」を「請求原因1(一)の事実は認める。同1(二)(1)の事実は認める。同1(二)(2)のうち、第一審原告甲野が昭和六三年二月二六日○○タクシーの取締役に就任し、同社を経営していたとする点は不知、その余の事実は認める。同1(二)(3)及び(4)の事実は認める。」と、四行目の「同2(一)の事実は認める。」を「同2(一)の主張は争う。」と各訂正する。

二八  五七頁二行目の「及び」の次に「県警が」を付加する。

二九  六一頁末行の「ポリクラフ」を「ポリグラフ」と訂正する。

三〇  六二頁一一行目の次に改行して次のとおり付加する。

「 (一五)同2(一四)のうち、県警が昭和六三年一二月一九日第一審原告甲野を本件被疑事実により通常逮捕した点は認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。」

三一  六二頁一二行目の「(一五)」を「(一六)」と訂正する。

三二  六五頁九行目の「請求原因1の事実は認める。」を「請求原因1(一)の事実のうち、第一審原告ら主張の本件殺人事件が発生したことは認める。」と訂正する。

三三  七〇頁一〇行目の次に改行して次のとおり付加する。

「(二) 同5(二)の事実は認める。」

三四  七〇頁一一行目の「(二) 同5(二)」を「(三) 同5(三)」と、一二行目の「(三)」を「(四)」と各訂正する。

三五  七一頁一〇行目末尾に「。」を付加し、同行の次に改行して次のとおり付加する。

「本件記事(二)の2は、本件記事(二)と対比すると、最上段の大見出しが前者では『松山の紙箱爆弾事件被害者と金銭トラブル』と、後者では『紙箱爆弾事件の被害者に多額借金』とそれぞれ記載されており、その表現方法が『金銭トラブル』と『多額借金』と異なっているもののその意味するところはほぼ同じであり、中見出し及び本文は同じである。したがって、本件記事(二)の2についても本件記事(二)について主張したことがそのまま当てはまる。もっとも、本件記事(二)の2には、本件記事(二)の2記載部分(4)があり、この点につき第一審原告甲野は、原判決事実欄の第二、一、5(三)(当審での付加部分)のとおり主張するが、他紙が、第一審原告甲野を有印私文書偽造などで別件逮捕し、別件の紙箱爆弾による爆殺事件について追及する旨報道しているのに対し、本件記事(二)及び本件記事(二)の2は、紙箱爆弾の被害者から約四〇〇〇万円の借金をしていたタクシー会社社長甲野太郎を有印私文書偽造などの疑いで逮捕した旨報ずるにとどまり、本件殺人事件について嫌疑があるとか同事件につき追及するなど別件逮捕を示唆する表現は全く存在せず、○○タクシーの写真掲載は、記事本文によって明らかなように、第一審原告甲野の逮捕容疑である有印私文書偽造が『○○タクシーが甲野から債務があるという架空の金銭借用証書(計一四〇〇万円)を作成した疑い』というのであるから、まさしく逮捕事実と密接に関連し、被害の舞台となった会社の写真を掲載したものであって、その本文を読めば、この写真掲載により第一審原告甲野が本件殺人事件の真犯人であると誤認する読者などあり得ない。」

三六  七一頁一一行目の「本件記事(二)」の次に「及び本件記(二)の2」を付加し、七五頁八行目の「本件殺人事件が」を「第一審被告丙山が」と訂正する。

三七  七九頁四行目及び七行目の各「本件記事(二)」の次にいずれも「及び本件記事(二)の2」を、九行目及び一二行目の各「記載部分」の次にいずれも「及び本件記事(二)の2記載部分の各」を各付加する。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、第一審原告甲野の第一審被告毎日新聞に対する請求は、原判決主文第一項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、第一審原告甲野の第一審被告大阪新聞に対する請求は、原判決主文第二項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、第一審原告甲野のその余の第一審被告らに対する請求及び第一審原告乙川の第一審被告愛媛県に対する請求は、いずれも理由がないから棄却すべきものであると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除する他は、原判決「理由」欄(八一頁三行目から一八七頁一一行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  八二頁五行目の「認められる」の次に「(なお、第一審原告甲野は、原判決は、例えば、甲第二号証ないし第五号証、第一五号証及び第一六号証の各1、2、第一九号証ないし第六二号証の如く、当事者全員が成立を認め、かつ信用性に疑問のない証拠も原判決独自の判断をするのに邪魔になると考えたらしい証拠は証拠としなかったと主張するが、原判決挙示の証拠により本項〔原判決の理由欄の第一、一〕の事実を認定することができ、第一審原告甲野の主張する右各証拠は右認定に必ずしも必要ではないから、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。)」を付加する。

2  八三頁一行目の「第一審」から二行目の「いう。」までを「社員権訴訟」と、五行目の「Eら」を「E」と、六行目の「すべてを譲渡したこと」を「を譲渡することにし、取り敢えず二五〇〇口の代金として三五〇〇万円が支払われたこと」と各訂正し、八行目の「なる。)、」の次に「ところが、Fが」を付加し、九行目の「Eら」を「E」と訂正する。

3  八四頁一一行目の「棄却」を「却下」と訂正する。

4  八六頁末行の「(以下「本件窃盗事件」という。)」を「(本件窃盗事件)」と訂正し、八七頁三行目の「県警は、」の次に「本件窃盗事件の直後にその捜査本部を設置するとともに、」を、同行の「直後、」の次に「本件殺人事件の」を各付加する。

5  八八頁八行目の「二六日、」の次に「被害者である第一審被告丙山と同業者である松山市内のタクシー業者から聞き込みをするため、○○タクシーにも赴き、経営者の」を付加し、八九頁三行目から四行目にかけての「供述」を「発言」と、四行目から五行目にかけての「の供述をした」を「述べた」と各訂正し、一一行目の「供述した」の次に「(第一審原告甲野は、事情聴取という用語は、自首して来たような特殊の場合を除き一般的に某と殺人事件との係り合いについて警察官の方から積極的に某を呼びつけ、同人に対しアリバイなど犯行と密接に関連する事項を中心として事件との関係事情を尋問することをいうところ、県警の警察官が、昭和六三年一〇月二六日、○○タクシーに赴いたのは、本件殺人事件の一般的情報収集のためにすぎず、いわゆる事情聴取とはほど遠いものであり、また、乙県第二九号証によると、県警のP警部補が、同年一一月二一日、第一審被告丙山と第一審原告甲野の会話中に、その中に入って第一審原告甲野とも会話をしたというものであって、警察官が取り調べたのでもなければ、第一審原告甲野が供述をしたというものでもなく、話合いをしたというにすぎないと主張するが、それらは、広い意味では事情聴取に当たるというべきであり、それに対する応答を供述と表現しても誤りとはいえない。)」を付加する。

6  九一頁一行目から二行目にかけての「しれない、とするものであった」を「しれないので、その点をビデオ店に確かめに行ったものの、記録がないということだったので、分からなかった、というものであった(第一審原告甲野は、ビデオ店に記録がないのは、県警がアリバイ隠しの工作をしたかのように主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。)。その際、第一審原告甲野は、同人が話したアリバイを捜査してもらって嘘があったら犯人にされても仕方がないと述べた。」と訂正する。

7  九一頁二行目から三行目にかけての「Dから」から四行目末尾までを「捜査を行ったもののアリバイが存在するかどうかを判断できるだけの明確な証拠は得られなかった(第一審原告甲野は、県警は、第一審原告甲野逮捕前にアリバイのあることを確認していたものであり、その証拠として、Qは、刑事公判において、本件殺人事件についての第一審原告甲野の嫌疑は動機面だけで濃厚な嫌疑はなかった旨証言し、アリバイについて疑問があること等が嫌疑の理由になっていたとは証言しなかったこと〔甲第一〇六号証〕、第一審原告甲野逮捕後、警察官が第一審原告甲野のアリバイを尋ね、同人が記憶のある分を答えても、警察官が『嘘を言うな。』とは言わなかった事実があると主張する。しかしながら、第一審原告甲野主張の証拠ないし事実から直ちに県警が第一審原告甲野逮捕前にアリバイのあることを確認していたことを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。)。」と訂正する。

8  九一頁六行目から七行目にかけての「できなかった」の次に「(第一審原告甲野は、真犯人Cの妻であったC'は、警察官面前調書〔甲第二一五号証〕において、Cは本件殺人事件当日の午前一〇時四五分ころから午後一時前後ころまで自宅におらず、自動車もなかった旨供述しているところ、前記Q証言〔甲第一〇六号証〕によると、Cに対しても第一審原告甲野に対する内偵捜査と並行して捜査し、Cの妻にも協力を得ていたというのであるから、第一審原告甲野の逮捕より前にCが本件殺人事件当日の犯行時間帯に自動車とともに家にいなかった事実を県警において把握していたはずであり、原判決の右認定は、事実誤認であると主張する。しかしながら、右警察官面前調書の作成日付は、平成元年三月一一日付けであり、それ以前にCの妻がどのような供述をしていたかは明らかではないし、仮に、Cの妻の供述により本件殺人事件当日の犯行時間帯にCが家にいないことが分かっていたとしても、当時においては、その時間帯に別の場所にいたというアリバイが出てくる可能性も否定できないのであるから、原判決の事実認定に誤りはなく、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。)」を付加する。

9  九二頁六行目の「事実関係を調査していたところ」を「同人から事情聴取するなどしていたところ」と訂正する。

10  九七頁六行目の「行った」の次に「(第一審原告甲野は、①乙県第三三号証〔Hの陳述書〕によると、『和歌山東署でのIからの事情聴取は、殺人事件発生当時のアリバイについて、午前一〇時半頃から午後五時頃まで行った』旨記載されているところ、Hの原審における証言によると、一二月一九日朝九時ころ第一審原告甲野の家に到着し、マスコミや銀行員の退去を求め、Iに本件窃盗事件か本件殺人事件ころの家計簿を探して持ち出させ、火気の仕末から戸締まりまでさせて和歌山東署にIを同行して、同署で取調べを始めたというのであり、その準備も含めるとその間どんなに短く見ても約一時間ないし一時間半は必要であるから、午前一〇時半ころから第一審原告甲野のアリバイについての取調べを始めたことになり、Hの主張する他の事実は取り調べる時間がないこと、②甲第八四号証〔Iの刑事公判での証言調書〕によると、アリバイについていろいろ調べられたのは、ダイナマイトが盗取された日と県警が考えていた一〇月一〇日のことであるというのであるが、現に警察官がIに持参させた家計簿が一〇月一〇日ころのものであることや第一審原告甲野が本件殺人事件発生当日松山にいたことは第一審原告甲野が県警に申し出ており、県警もその事実は把握していたであろうから、本件殺人事件当日のアリバイ関係を和歌山のIに尋ねる必要はないので、Iの証言どおりHは一〇月一〇日のアリバイについて尋ねたものと思われること、③もし、本件被疑事実に関する取調べを先行するつもりなら、その事実に関するころの家計簿を持参させるか、一〇月一〇日のアリバイを尋ねるより前に家宅捜索を先に行ってその証拠を押収するのが捜査の常識であり、そのために捜査令状の発付を受けていること等に照らすと、一二月一九日には本件被疑事実についての取調べはなかったと主張する。しかしながら、右①の点につき、乙県第三三号証には、第一審原告甲野の生活状況、タクシー会社経営に必要な経費の捻出方法及び殺人事件発生当時のアリバイについて、一二月一九日午前一〇時半ころから午後五時ころまでIから事情聴取した旨記載されており、第一審原告甲野が主張するように、殺人事件発生当時のアリバイについて、午前一〇時半ころから午後五時ころまでIから事情聴取した旨記載されているものではない。また、右②、③の点については、本項(原判決理由欄の第一、一、6)で認定しているとおり、Hらは、一二月二〇日本件被疑事実についての捜索差押許可状に基づき第一審原告甲野宅を捜索し、金銭消費貸借契約証書等の本件被疑事実に関する証拠品を押収したり、和歌山市内において、SやTらから第一審原告甲野の生活状況について事情聴取をしていることに照らすと、Hらが、本件窃盗事件及び本件殺人事件だけではなく、本件被疑事実についての捜査をも行うために第一審原告甲野宅に赴いたことは明らかであるから、一二月一九日にIから第一審原告甲野の生活状況、タクシー会社経営に必要な経費の捻出方法等についても事情聴取を行ったとする証人Hの原審における証言部分及び乙県第三三号証の記載は、信用できるというべきである。そして、どのような捜査手法をとるかは、捜査機関が個別の事情を検討して判断するものであるから、本件窃盗事件や本件殺人事件の捜査と並行して本件被疑事実を捜査することが必ずしも捜査の常識に反するとはいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。)」を、八行目の「押収した」の次に「(なお、第一審原告甲野は、捜索差押許可状に差し押さえるべき物として記載されている物以外の物を押収している等と主張するが、第一審原告甲野は、この点を違法事由として主張しているものではないし、原判決の事実認定が誤りであると主張するものでもないので、右主張についての判断はしない。)」を各付加する。

11  九八頁二行目の「提出した」の次に「(第一審原告甲野は、原判決は、①本件借用証書に貼付された印紙額についての捜査報告書(乙県第一三号証)を裏付け捜査としているが、本件借用証書の内容が虚偽であることが判決で確定しており、また、作成時期についてはFが既に県警で供述しているので、印紙額を調査することは全く無意味で裏付け捜査ではない、②U巡査作成の捜査報告書(乙県第一四号証)も裏付け捜査としているが、その報告の内容は、検察官が犯行の動機であると主張する裁判所書記官の話が昭和六〇年三月から同年四月二六日までの間であったとするもので、起訴状及び検察官の冒頭陳述における検察官の主張に反するから、裏付け捜査ではないと主張する。しかし、右①の点は、民事裁判での判決であるし、関係者の供述があっても、物証の裏付けをとるのは捜査官として当然のことであり、裏付け捜査であることは明らかである。また、右②の点については、裁判所書記官の話が昭和六〇年三月から同年四月二六日までの間であったというのは、関係者から事情聴取した結果に基づくU巡査の意見であって、それが検察官に採用されなかったからといって、関係者からの事情聴取が裏付け捜査でないとは到底いえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。)」を付加する。

12  九八頁七行目の「作成した」の次に「(第一審原告甲野は、第一審原告乙川がVに電話で尋ねたところ、警察官が印紙のことを尋ねに来たこともなく、調書が作成されたこともないということであった〔甲第二三五号証〕から、県警の調書捏造であると主張するが、乙県第一六号証によれば、Vの供述調書が作成され、その末尾には、Vの署名押印であるとして、Vの氏名とVと刻した印鑑の印影がある上、その内容も具体的で警察官が創作したとは考え難いから、右甲第二三五号証の記載は採用できず、他に第一審原告甲野の主張事実を認めるに足りる証拠はない。)」を付加する。

13  九九頁二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「二  第一審原告甲野は、右一、8項において、有印私文書偽造罪等が認定された点につき、引用の証拠によっても右有印私文書偽造罪等の成立を認定し難く、また、Fが○○タクシーの取締役ではなく、Rが代表取締役であったとの認定につき、Rは、登記簿上代表取締役として登記されているにすぎず、当時、実体上はFが○○タクシーの代表取締役であったと主張する。

しかしながら、右認定のとおり、本件被疑(公訴)事実により第一審原告甲野に対する有罪判決が確定しているのであり、前項(原判決理由欄の第一、一)冒頭に掲記した証拠並びに甲第一一三号証、同第一一八号証、同第一二一号証等によっても、本件被疑(公訴)事実の成立を認めることができる。

第一審原告甲野は、FがO弁護士に教えられ、買戻権を行使した当日か翌日、名義上社員権五〇〇口の社員である妻F'と全員出席の臨時社員総会を開き、右総会においてFを○○タクシーの代表取締役に選任する決議とE側役員の解任決議がなされたことにより、本件借用証書作成当時、Fが○○タクシーの代表取締役であったと主張するが、社員総会の議事録も作成されておらず(有限会社法四一条、商法二四四条)、取締役就任の登記手続を行う等自己が○○タクシーの(代表)取締役に就任したことを示す明確な行動をとった形跡がないこと等に照らすと、○○タクシーの社員総会においてFを(代表)取締役に選任したとは認めるに足りない。第一審原告甲野は、Fが昭和五七年四月一五日、松山地方裁判所に、社員権訴訟を提起していること等社員持分権ひいてはその経営権、代表者の地位取得を会社内外に明確にする措置をとっていると主張するが、社員持分権の主張をしたからといって直ちに代表取締役であることの主張をしているとはいえず、第一審原告甲野の主張するその余の事由についても同様である。したがって、Fが本件借用証書作成当時、○○タクシーの(代表)取締役であったとは認められないから、本件借用証書の作成権限はなかったというべきである。

また、第一審原告甲野は、Fから、○○タクシーの持分の買戻等により同人が○○タクシーの代表取締役になった旨の説明を受け、その旨信じていたから、有印私文書偽造、同行使の犯意がなかったと主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件借用書作成時は、社員権訴訟が係属中であった上、前述したとおり、○○タクシーの社員総会においてFを(代表)取締役に選任したと認めるに足りないこと等を併せ考慮すると、第一審原告甲野の右主張も理由がなく、採用できない。」

14  一〇一頁二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決は、『県警の警察官は、本件殺人事件が発生した翌日、第一審原告甲野から本件殺人事件に関する事情を聴取し、また、第一審原告甲野が第一審被告丙山の見舞いに訪れた際、第一審原告甲野から直接アリバイを聴取しているので、県警の警察官が第一審原告甲野から一切早期に本件殺人事件に関する事情聴取をしなかったということはできない』旨判示するが、事情聴取というのは、前記のとおり、警察から積極的に容疑者を呼び出すなどして取り調べることをいうところ、警察官が本件殺人事件が発生した翌日に第一審原告甲野に会ったのはたまたまであり、一般的な聞き込みに行ったにすぎず、また、病院で警察官が第一審原告甲野から事情聴取をしたというのも、第一審原告甲野が第一審被告丙山を見舞いに行った際、たまたま同人を警護していた警察官が、第一審被告丙山と第一審原告甲野の会話を聞いたり、その会話の中に入って会話を交わしたにすぎないから、原判決の右判示は、誤りであると主張する。しかしながら、前述したとおり、事情聴取は、必ずしも警察の方から積極的に容疑者を呼び出して取り調べることに限られるものではなく、第一審原告甲野が主張するような態様での聴取であっても、事件についての事情を聞いていることには違いがないのであるから、これを広い意味で事情聴取とみても誤りではないというべきである。

第一審原告甲野は、原判決が、『本件殺人事件は極めて重い刑罰が予想されるから、逃走及び罪証隠滅のおそれを考慮して、捜査の状況を察知されるおそれのある被疑者と目する者の早期の取調べに慎重になることも理由がないことではない』旨判示する点につき、県警は、第一審原告甲野が早くからマスコミの取材を通じて、県警が自分を本件殺人事件の犯人と考えていることを知っており、その犯人が死刑に処せられるとも思っていたことを、知っていたが、それでも第一審原告甲野において逃亡もしなければ罪証隠滅もしなかったのであるから、そのおそれがあることを考慮して第一審原告甲野の早期取調べに慎重になる理由はないこと、第一審原告甲野の方から調べてくれと何回も申し出ているのであるから取調べをしない理由は全くないこと、警察法一二条に基づいて制定された国家公安委員会規則で、警察職員の勤務及び活動の基準としての性格を持つ犯罪捜査規範第二条にも『捜査は……迅速に行わなければならない』旨規定されており、特に凶悪犯罪については容疑者が浮かび上がり次第警察が容疑者を早期に任意で取り調べるのが捜査の常道であることから、原判決の右判示は、合理性を欠くと主張する。しかしながら、迅速に捜査を行わなければならないことは、もとより当然のことではあるが、そもそもいかなる段階で被疑者と目される者に任意での出頭を求め、その取調べを行うかは、捜査機関が原判決説示のような諸般の事情を考慮して判断するものであり、事柄の性質上捜査機関の判断に委ねられているというべきである。そして、本件においては、原判決が説示するとおり、第一審原告甲野と本件殺人事件とを結びつける有力な物証及び人証は見つかっていなかったのであるから、捜査機関が逃亡及び罪証隠滅のおそれ等を考慮して早期の取調べに慎重になったとしても、その判断が不当であるとはいえない。この点につき、第一審原告甲野は、凶悪犯罪の場合は物証や人証がない時点で発生後直ちに関係者全員から参考人として事情を聴取するのが原則であり、また、第一審被告丙山において、第一審原告甲野が犯人であると指摘していたのであるから、その指摘に基づいて早期に任意で取り調べるのは警察の法令上の当然の義務であると主張するが、一般的にいって凶悪犯罪の場合に物証や人証がない時点で発生後直ちに関係者全員から参考人として事情聴取することにより、逃亡及び罪証隠滅のおそれが生じることは容易に想定し得るところであり、第一審原告甲野主張の点を考慮しても、本件のような状況のもとにおいて、前記法令により県警において早期に任意で第一審原告甲野を取り調べることが義務付けられるとは解されないから、右主張も採用できない。」

15  一〇二頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、刑事訴訟法一九七条一項等の規定により、任意捜査が原則であり、強制捜査は必要ある場合に限定されていることの他、前項(原判決理由欄の第二、一)の主張と概ね同様の理由により、県警には、第一審原告甲野を本件被疑事実により逮捕する前に本件殺人事件に関する任意での取調べをすべき法令上の義務があったと主張し、原判決の右説示を論難するが、任意捜査が原則であることを考慮しても、本件において、右法令上の義務があると認められないことは、前項において述べたとおりである。」

16  一〇二頁一一行目の「あいまいな供述」の次に「を」を付加し、一二行目の「あったのであったこと」を「あったこと」と訂正し、一〇三頁六行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、県警が第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人であると判断したことをもって国家賠償法上違法とする第一審原告甲野の主張は理由がない等と原判決が判示している点について、県警が第一審原告甲野を本件殺人事件の単なる被疑者の一人であるとしたことを違法と主張しているのではなく、別件逮捕までする最重要容疑者に選定したことを違法であると主張しているのであるから、第一審原告甲野の主張を誤解していると主張する。

しかしながら、前記前提となる事実(原判決理由欄の第一、一)によれば、県警は、第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人であると判断していたことは認められるものの、同人が最重要容疑者であると判断するだけの有力な証拠は未だなかったのであり、現に、県警は、Cについても被疑者の一人であると考え、ポリグラフ検査まで行っており、その他にも複数の関係者の名前が挙がっていたこと(甲第一〇六号証、第一〇七号証、原審証人Q、第一審被告丙山〔原審〕)にも照らすと、県警において第一審原告甲野を本件殺人事件の最重要容疑者に絞り込んだとまでは認めるに足りない。原判決は、右認定を前提として、右のような判示をしているものと解されるから、必ずしも第一審原告甲野の主張を誤解しているとはいえない。なお、第一審原告甲野は、県警が第一審原告甲野を最重要容疑者に選定したことの根拠として、第一審原告甲野を違法に別件逮捕したことをいうようであるが、後述するとおり、違法な別件逮捕とは認められないというべきであるから、第一審原告甲野の右主張も採用できない。

第一審原告甲野は、原判決が第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人として判断したことが不合理でない理由として判示する①第一審被告丙山と第一審原告甲野との連絡が途絶えていることについて、借金を返せない者が債権者と連絡をとりたがらないのは世間の常であるが、そうであるからといって人を殺したりはしない、②本件殺人事件の被害者である第一審被告丙山において、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人ではないかと思う旨の供述をしていたことについて、被害者が犯人だと思うという以上、単なる被疑者の一人と考えるだけなら当然である、③第一審原告甲野自身、当初、本件殺人事件発生当日のアリバイについてあいまいな供述をしていた点について、それは女性関係を隠すためだったと自分の方から県警に真実を申し出ているのであるから、その時点で第一審原告甲野を被疑者と判断する理由がなくなっている上、真犯人であれば、自己の虚偽のアリバイが崩れるのを恐れ、必ず特定のアリバイ状況を作り上げ、その説明に終始するが、第一審原告甲野のように、当初行きあたりばったりに会う人ごとに違うことを言っていたのは、犯人でない気安さから無警戒にいい加減なことを言っていることを察知しなければならない、④第一審原告甲野が最終的に真実のアリバイを供述していたものの、いまだ明確な裏付けがとれない状態であったという点について、県警は第一審原告甲野にアリバイがあることを承知していたものであり、仮に、明確な裏付けがとれなかったのなら、裏付けがとれるまで捜査を続けて、アリバイに合理的な疑いが残る場合に初めて強制捜査に着手すべきであり、アリバイに合理的な疑いもないのに、捜査官が勝手に明確な裏付けがないとして被疑者とする理由にすることは刑事訴訟法の精神に照らし許されないと主張する。

しかしながら、原判決は、原判決挙示の諸事情を総合すると、県警が第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人であると判断したことは不合理ではないと判示しているのであって、個別に取り上げて論じることは必ずしも適切ではないとも考えられるが、右諸事情を個別に検討しても、その程度はともかくとして第一審原告甲野が本件殺人事件の被疑者の一人であるという判断に傾く事情であるというべきである。これに対し、第一審原告甲野は、右のとおり主張するが、右①、②の主張が有効な反論になり得ていないことはいうまでもない。次に、右③の点については、第一審原告甲野がアリバイについてあいまいな供述をしていたのは、女性関係を隠すためであったと供述したとしても、前記認定のとおり、その当時は、それが真実かどうかを判断するだけの明確な証拠がなかったのであるから、第一審原告甲野を被疑者と判断する理由がなくなったとはいえず、また、あいまいな供述を繰り返すことはそれ自体真実でないことを疑わせるから、必ずしも第一審原告甲野主張のようにはいえないというべきである。更に、右④の点については、前述したとおり、県警が第一審原告甲野にアリバイがあることを承知していたことを認めるに足りる証拠はないし、原判決が説示するとおり、そもそもいかなる者を被疑者と考えるかは、捜査の進行状況に応じて捜査機関内部で判断される問題であり、県警が第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人と考えたこと自体によっては第一審原告甲野に何ら不利益を与えるものではないから、右主張も理由がない。

更に、第一審原告甲野は、原判決は、第一審原告甲野の主張する最重要容疑者選定の違法の理由について判断を遺脱していると主張するが、前述したとおり、県警において第一審原告甲野を本件殺人事件の最重要容疑者に選定したことまでは認めるに足りないから、第一審原告甲野の主張は、その前提を欠くというべきであるし、仮に、県警が第一審原告甲野を本件殺人事件の最重要容疑者と考えたとしても、そのこと自体によっては第一審原告甲野に何ら不利益を与えるものではないから、第一審原告甲野の主張する点について判断しなかったからといって、違法であるとはいえない。」

17  一〇四頁一一行目の「聞いていなかったこと」を「聞いておらず、第一審原告甲野との間で、金の分け前などの話も一切なかったこと、」と訂正し、一〇五頁八行目の「非難されたこと」の次に「、Eとの間で作成した持分権譲渡契約書(甲第六号証)には、昭和五七年二月二四日以前の負債については、一切E側は関知しないという条項があるので、いくら昭和五五年、五六年ころの金銭貸借があってもEに請求して金を取れるはずもなく、私自身(注・Fのこと)は、第一審原告甲野が起こした裁判を利用してEから金を騙し取ってやろうという気持ちで偽りの証言をしたのではなく、偽の借用証書でE側から現実に金を取れるなどとは夢にも思っていなかったこと」を、一〇六頁三行目の「本件借用証書を見て」の次に「、本件借用証書の作成日ころであれば○○タクシーのゴム印や代表者印をFが自由に使えるはずであるのに、ゴム印を使わずに手書であり、また、印鑑がFの個人印であるのは不自然で、ありもしない債権をでっちあげて提訴し、」を各付加する。

18  一〇八頁四行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決は、原判決が挙示した証拠以外に少なくとも約一五点の重要な証拠が県警に収集されていた事実を見落として、本件逮捕状請求及び本件逮捕当時、第一審原告甲野が犯罪を犯したと認めるに足りる相当な理由があったと評価できると判示している誤りがあると主張する。

しかしながら、第一審原告甲野は、第一審原告甲野に本件殺人事件当日のアリバイがあったことの証拠として甲第一〇六号証(Qの刑事公判における証人尋問調書)及び原審証人Qの証言を挙げるが、右証拠を子細に検討しても、第一審原告甲野が逮捕される前ころ、第一審原告甲野に本件殺人事件当日のアリバイがあることが判明していたとはいえないし、そもそも本件逮捕は、本件被疑事実によるものであるから、本件逮捕状請求及び本件逮捕当時、第一審原告甲野が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったかどうかを判断するのに、第一審原告甲野の主張する約一五点の証拠のうち右の証拠を含む本件殺人事件に関係する証拠を検討する必要はないというべきである。

ところで、刑事訴訟法一九九条の『被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由』とは、捜査機関の単なる主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏付けられた客観的・合理的な嫌疑でなければならないが、捜査段階での嫌疑であるから、有罪判決の事実認定に要求される合理的疑いを超える程度の高度の証明が必要ではなく、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までも要求されていないところ、原判決が前項(原判決理由欄の第二、四、1)で挙示する証拠及び原判決の判示するところによれば、第一審原告甲野が有印私文書偽造、同行使の罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるに十分である(以上の判示は、後記(二)の詐欺未遂罪及び(三)の偽証教唆罪についても同様である。)。

第一審原告甲野は、①原判決は、右のとおり、Fの警察官面前調書に信用性があると評価しながら、次の詐欺未遂罪については、Fが、自分も第一審原告甲野も詐欺の犯意はなかった旨供述しているのに、理由も示さずこの供述部分だけを除外した不公平な証拠採否をしている、②持分権確認訴訟は、確認訴訟であって形成訴訟ではないから、原判決が判示する社員権訴訟が継続中であったことは有印私文書偽造罪の成否に関係がなく、県警が捜査をしておれば、第一審原告甲野主張の前記○○タクシーの全員出席社員総会により、Fを同社の代表取締役に選任する決議がなされたことが判明するのに、殊更その捜査をしないで漫然有印私文書偽造罪が成立すると誤認したことに重大な過失がある、③原判決が、当時、Fが○○タクシーの取締役でなく、Rが代表取締役であったと判示する点は、登記簿上のことであれば正しいが、実体面の判示であれば誤りである(登記は第三者に対する対抗要件にすぎない。)、④原判決が第一審原告甲野もFが○○タクシーの取締役でないことを認識していたと判示する点は事実誤認である等と主張する。

しかしながら、右①の点については、原判決は、Fの有印私文書偽造罪等についての供述が、客観的な物証の存在と一致し、その内容も具体的、詳細であるから信用できるとしているのに対し、詐欺未遂罪については、次項(原判決理由欄の第二、四、2(二))に述べる理由により第一審原告甲野に詐欺の故意があったと推認し、右部分に関するFの警察官面前調書における供述を採用していないのであって、理由も示さない不公平な証拠採否をしているとはいえない(関係人の供述については、他の関係証拠と照らし合わせる等してその信用性について吟味するのは当然のことであり、その結果、同一人の供述であっても、一部を採用し、一部を採用しないこともあり得ることである。)。右②の点については、○○タクシーの全員出席社員総会により、Fを同社の代表取締役に選任する決議がなされたことが認められないことは、前述したとおりであるから、第一審原告甲野の主張は、その前提を欠き、理由がない。右③、④の各点についても、第一審原告甲野の主張が認められないことは、前述したとおりである。」

19  一〇八頁末行の「推測」を「推認」と訂正し、一〇九頁二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①本件では、持分権譲渡契約書(甲第六号証)があるところ、Fは、警察官面前調書(甲第七九号証)において、右契約書があるから本件借用証書の債権についてはEに請求できないし、請求すると社員権訴訟にも悪影響があるので、訴訟で偽証して金をとるつもりはなかった旨供述し、また、第一審原告甲野もEに嫌がらせをしてやろうと言っていたもので、第一審原告甲野に詐欺の犯意があったことを推測させる供述すらない、②U巡査作成の昭和六三年一二月二四日付け(乙県第一二号証)及び同月二六日付け(乙県第一四号証)各捜査報告書によると、検察官の冒頭陳述で動機とされている社員権訴訟で敗訴するかもしれないとの裁判所書記官の話があったのは、記録上明らかな昭和五八年一〇月一七日では昭和五九年九月ころの本件借用証書の作成時期とあまりにも時間的経過が長いので、判決の直前ころではないかと推測される旨報告されているところ、これは、裁判所書記官の話が昭和五八年一〇月では犯行の動機になり得ないという判断が基底にあり、もっともな理由であるから、裁判所書記官の話が昭和五八年一〇月とすれば、一般的には犯行の動機がないことになる、③Fは、本件借用証書を嫌がらせのために作成したと供述しているところ、嫌がらせをするためには少なくとも本件借用証書記載のような貸借があったことをE側に知らせる必要があるが、第一審原告甲野が本件借用証書を作成した昭和五九年一〇月ころから昭和六〇年五月までの約半年もの長い間にW弁護士事務所に一回だけの告知しかしていないのは、まさに嫌がらせの方法であったと認められ、ひいては本件借用証書作成の目的、詐欺の犯意不存在についてのF及び第一審原告甲野の主張ないし供述を裏付けるものである、もし、仮に、F及び第一審原告甲野に検察官主張のように本件借用証書作成時に金員騙取の目的があったのであれば、W弁護士が看破したように、一見しただけでEに○○タクシーの社印や代表者印を譲った後に作成したものであることが分かる本件借用証書ではなく、同社の社印や代表者印を必要としないで、○○タクシーのためにFが第一審原告甲野から金印を借用した形式の文書を作成するであろうし、作成後執拗に支払を催促するとか、すぐに訴訟を提起するはずである等と主張する。

しかしながら、右①の点については、第一審原告甲野は、E側が○○タクシーの経営権を握っている現実を前提に、○○タクシーに対し、本件貸金訴訟を提起したものであり、当時のEの資力からして同人に対する前記契約書に基づく責任追及が事実上不可能であったこと(甲第一〇四号証、甲第一六一号証、原審証人F)等に照らすと、甲第六号証が存在するからといって必ずしも第一審原告甲野主張のようにはいえないというべきである。また、第一審原告甲野らに嫌がらせの意図があったとしても、詐欺の故意と相容れないものではなく、併存することはあり得るのであって、本件貸金訴訟に勝訴し、○○タクシーから金銭を取得することは、右の意図にもかなうというべきである。右②の点については、裁判所書記官の話が昭和五八年一〇月ころであったとしても(J巡査作成の各捜査報告書の作成日付は、本件逮捕後であるから、本件逮捕状請求及び逮捕当時の資料といえないのではないかという問題があるが、この点はさておく。)、甲第七〇号証、第七一号証及び第八三号証によれば(本件逮捕後に作成された証拠であるが、第一審原告甲野は、詐欺未遂罪の成否を問題にしているので、第一審原告甲野の主張に則して、本件逮捕後に作成された証拠をも加味して、本項で判示することとする。)、Fが第一審原告甲野に裁判所書記官の話をしたのは、昭和五九年九月ころであったことが認められ、その後に本件借用証書を偽造したものであり(第一審原告甲野は、捜査官において、裁判所書記官の話があってから約一年も後になってFが第一審原告甲野にその話をしたことにして、動機を捏造したと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。)、また、第一審原告甲野は、Fが社員権訴訟の第一審において敗訴し、控訴した直後に本件貸金訴訟を提起しており、右訴訟の帰趨は、当時の客観的な情勢に鑑みれば、予断を許さない状況にあったといえるから(甲第六六号証によれば、第一審原告甲野は、刑事公判で、第一審で敗訴したときには控訴審で勝てるとは思っていなかった旨供述している。)、第一審原告甲野がFに対する貸金の回収に危機感を抱いて本件貸金訴訟を提起したものと推認されること等に鑑みると、動機は十分に認められる。右③の点については、第一審原告甲野が、Fから本件借用証書に基づき金員を請求すると、社員権訴訟に悪影響を及ぼすおそれがあると言われていたことから(甲第七一号証、第八三号証)、本件借用証書作成後もなお社員権訴訟の帰趨を見ていたことも十分考えられるから、詐欺の故意があれば作成後執拗に支払を催促したり、すぐに訴訟を提起するはずであるとは必ずしもいえない。また、第一審原告甲野が依頼したG弁護士は、本件借用証書が偽造であることに気付かないで、本件貸金訴訟を提起、追行していたことからすると、本件借用証書が一見してすぐに偽造であると見破られる程度のものともいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。」

20  一〇九頁一一行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、偽証教唆罪が成立するためには、少なくとも裁判所で虚偽事実を供述する意思のない者に、虚偽事実を供述することを決意せしめることが必要であるところ、第一審原告甲野が虚偽事実を供述する意思のなかったFに虚偽事実を供述することを決意せしめた事実はないとして、①Fの警察官面前調書の信用性について、共犯者とされている者の他の共犯者に関する供述の信用性については深い吟味を要するというのが定説である上、第一審原告甲野とFが対立し、Fが昭和六三年七月県警に対し、第一審原告甲野に会社を乗っ取られたなどと虚偽の申告をしたほど仲が悪かった者の供述であることを考慮すべきである、②原判決は、Fが虚偽の供述をする利益は大きくないと判示している(もっとも、原判決の右判示によっても、Fが虚偽の供述をすることによって利益を受けることは認めていることになる。)が、Fは虚偽の供述をすることによって、本件殺人事件を本件とし、本件被疑事実を別件とする被疑者として第一審原告甲野を県警に逮捕させることにより、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であることが判明するか、若しくは第一審原告甲野が虚偽の自白にせよその犯人であると自白すれば、○○タクシーの経営権が自分に帰ってくるという大きな利益を受ける、③本件借用証書を作成した以上、他人から尋ねられたら借用証書どおりの貸借があったと答えざるを得ないのは常識であり、Fも、G弁護士やXから本件借用証書のとおり貸借したかどうかについて尋ねられた際、右貸借があった旨答えている等と主張する。

右①の点については、確かに一般的に共犯者に関する供述の信用性については慎重な吟味を要し、また、Fが県警に対し、第一審原告甲野に会社を乗っ取られたなどと申告していることは認められるが、それらの点を考慮しても、Fの警察官面前調書における偽証に至る経緯についての供述に格別不自然な点はなく、信用性が認められるというべきであり、また、右②の点については、Fが第一審原告甲野主張のようなことを企図して虚偽の供述をしたことを認めるに足りる証拠はなく、第一審原告甲野の憶測の域を出ないというべきである。右③の点については、偽証罪で処罰される危険性のある裁判での証言とは、状況が異なるから、必ずしも第一審原告甲野主張のようにはいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。」

21  一一〇頁末行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決が、①ワープロ等の物証でいまだ押収されていないものがあったと判示している点について、ワープロ等を押収する必要はなく、現実にこれを押収していない、本件貸金訴訟記録は裁判所から提供を受け、Fは詐欺未遂罪を除き自供し、本件借用証書の原本も任意提出しており、本件被疑事実を立証するため、他に真に押収を必要とするものがないことは明らかである、②Fは詳細な供述をしていたが、その後第一審原告甲野との通謀によりその内容を否定することも予想し得たと判示している点について、Fは県警に第一審原告甲野が○○タクシーを乗っ取ったなど虚偽の申立てをするほど第一審原告甲野と決定的に対立し、第一審原告甲野を本件殺人事件の容疑について取り調べるための本件被疑事実立件に向けて県警の求めに応じ本件借用証書を提出するなど協力していたのであるから、両名の通謀によりその内容を否定することがあるなどとは到底考えられることではない、③Fと第一審原告甲野は対立していたが、情状面も含めて本件被疑事実の発覚、拡大を防ぐという点では利害は一致すると判示している点について、捜査官が考えていた被疑事実は既に発覚しているところであり、拡大なるものは考えようがない、情状面ではEの悪行はFの供述しているところであり、その他の情状面でもFと第一審原告甲野が打ち合わせて虚偽の事実を作出するところはないし、そのようなことができる仲ではないことも県警においてよく分かっていたことであり、分かっていたからこそ、秘かにFに協力を求めて第一審原告甲野の全く知らない間に本件被疑事実立件の準備ができたのである、④本件被疑事実が軽微な犯罪でないと判示している点について、仮に、本件被疑事実が成立すると仮定しても、(1)本件被疑事実の実質的な被害者であるEは、Fの適法な社員権買戻を正当な理由もなく拒絶し、約六年間にわたって約一億二〇〇〇万円の利益を不法に領得した上、中にはE個人が私的に費消したものもあるのであって、本件被疑事実のそもそもの発端を作ったのは、Eであること、(2)法律的には○○タクシーを相手に訴訟を提起していたから、○○タクシーが被害者といえるが、同社は、第一審原告甲野が本件貸金訴訟を提起していたころはEら一族が乗っ取り経営していたものの、本件逮捕状請求当時は第一審原告甲野が法律上も実質上も経営していたから、右時点では、第一審原告甲野が同人の経営する○○タクシーに金員請求をした状態になっていたこと、(3)有印私文書偽造、同行使については、昭和五七年三月三一日に○○タクシーの全社員持分権はFに帰属しているのであり、捜査官がなすべき捜査をしておれば、同日ころFが同社の代表取締役に選任されていることが明らかになり、したがって、同罪が成立しないことも分かったものであり、詐欺未遂についてはFも警察で詐欺の犯意を否定し、単なる嫌がらせであった旨供述し、第一審原告甲野についても同人に金員騙取の目的があったとは供述していないから、同罪については成立しないことが当初から分かっていたものであり、偽証教唆については、Fの警察官面前調書では同罪の成立を認めることは困難であり、全証拠を正当に評価検討し、条理に従った判断をすれば、すべてについて犯罪の成立しないことが判断できる事案であり、仮に、犯罪が成立するとしてもその成立は微妙なものであり、犯情は格別に軽微であること、(4)本件は、Eの横暴によるFの困窮に立腹した第一審原告甲野がせめてもの嫌がらせの目的で本件借用証書を作成したものの、約半年間に一度だけEの顧問弁護士の事務所にコピーを持参し、金員を支払うよう伝えられたい旨言って嫌がらせをしただけのものであったところ、Fが勝訴すべき社員権訴訟の第一審で敗訴したことに激怒し、敗訴判決の四日後にG弁護士に本件貸金訴訟を提起するよう依頼したもので、仮に、犯罪が客観的に成立するとしても、その動機において非難可能性がないこと、(5)本件借用証書の作成は一見して虚偽のものと看破される幼稚なものであったこと、(6)警察は一般に民事不介入を原則としており、本件のように判決後二年余を経過し、Eも放置していた事件で、特に検挙を望んでいた事件でないものを検挙することはしないこと、(7)第一審原告甲野は、訴えを提起したものの代理人に対して協力もせず敗訴するに委せていたものであり実害は全くなかったこと等を総合すると、本件被疑事実は、仮に全事実について犯罪が成立するとしても犯情軽微な犯罪である、⑤逃亡のおそれはともかく、罪証隠滅のおそれは十分考えられたと判示している点について、前記のとおりFと第一審原告甲野は徹底的に対立していたから、罪証隠滅のおそれは全くない等と反論し、逮捕の必要性は認められないと主張する。

しかしながら、右①の点については、仮に、被疑者の自供があるとしても、犯罪事実の立証のために物証の裏付けが必要であることはいうまでもないことであり、それらが収集されていないことは、なお罪証隠滅の余地があることを基礎付ける事実というべきである。そして、本件被疑事実の罪質、犯行態様等に鑑みると、必ずしも真に押収を必要とするものがないとはいえず、現に県警が押収ないし任意提出を受けた証拠物は、その必要性があるものと認められる(甲第二三三号証、第二三四号証)。右②の点については、原判決が説示するとおりであり、通謀による罪証隠滅のおそれが認められるというべきである。この点につき、第一審原告甲野は、右③のとおり主張するところ、確かに本件被疑事実自体は、発覚していたといえるが、原判決が判示するとおり、犯罪の成否だけでなく、情状にも影響する重要な事実が本件逮捕状請求の段階ですべて明らかになっていたとは必ずしもいえない状況の下で、自己の刑責を免れあるいは軽減するという点でFと第一審原告甲野の利害が一致するとみることには、十分合理性があるというべきである。右④の点については、本件被疑事実は、合計一四〇〇万円という多額の金員を騙取しようとして貸金訴訟を提起し、偽造した借用証書を証拠として提出し、Fに偽証させるなどしたものの敗訴して未遂に終わったという事案であり(本件被疑事実が認められることは、前述したとおりである。)、結果的に未遂に終わったものの騙取しようとした金員は多額である上、犯行態様も裁判制度を悪用し判決を騙取しようとしたものであって悪質であること、また、詐欺未遂罪は財産犯であるから被害者の落ち度や処罰意思等が問題になりうるが、有印私文書偽造、同行使罪は、文書に対する公共的信用を害するものであり、偽証教唆罪は、裁判を誤らせるおそれがあるものであって、いずれも社会的法益に対する罪であること等を考慮すると、本件被疑事実が軽微であるといえないことは明らかである。右⑤の点については、右②、③の点について述べたとおりである。以上のとおりであり、第一審原告甲野の主張は採用できない。」

22  一一一頁一二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決が、①甲第一二一号証に照らし、Eが第一審原告甲野らの検挙を望んでいなかったということはできないと判示している点について、Eの刑事公判における証人尋問調書(甲第一一九号証、第一二〇号証)では、本件貸金訴訟の勝訴判決後も、県警に言うほどのことでもないので県警へは言わなかった、本件貸金訴訟について腹立たしく思わないわけではないと答えるにとどまっている、②本件被疑事実は、財産犯だけでなく、文書に対する社会の信頼を阻害し、裁判制度を悪用して一四〇〇万円を騙取しようとした事案であると判示している点について、本件被疑事実は十分捜査を尽くせば、いずれも犯罪が成立しないことが明らかになる事案であり、仮に、犯罪が成立するとしても、実質被害者とされているEの方が悪質で、本件被疑事実の立件は、検挙すべきEを検挙せず法の保護を与えるものである他、動機その他諸般の事情を総合すると到底立件すべき事案ではなく、本件殺人事件を取り調べるために掘り起こした事件であることは、前記Eの証人尋問調書(甲一一九号証、第一二〇号証)によって明らかであると主張する。

しかしながら、右①の点については、確かにEの前記証人尋問調書には、第一審原告甲野主張の記載があるが、それによっても本件貸金訴訟について腹立たしく思わないわけではないと答えている上、第一審原告甲野らのやり方が汚いと思って憤慨していたもので、厳重に処罰してほしいと思っているとの記載があるEの検察官面前調書(甲第一二一号証)につき、同人の記憶どおり述べた旨供述しているのであって(甲第一二〇号証)、E自身が処罰を望んでいないとは必ずしもいえないこと、右②については、犯罪が成立することや本件被疑事実が社会的法益に対する罪をも含むもので決して軽微な事案でないことは、前述したとおりであり、本件被疑事実が本件殺人事件の捜査の過程で発覚したとしても、刑事事件として立件すべきでない事案であるとはいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。」

23  一一三頁九行目の「発覚したものであり」の次に「(第一審原告甲野は、甲第九号証によれば、本件被疑事実はXからの聞き込みにより発覚したと明記されており、また、Fは、原審において、右申告について全然調べてもらえなかった旨証言しているから、右認定は誤りであると主張するが、甲第九号証には、○○タクシーの経営権譲渡をめぐる問題に関し、過去同社に貸金債権を持ち、同社代表取締役に就任していたことのあるXに事情聴取した際発覚した、その前にFから経営権譲渡問題に関し事情聴取したが、本件貸金訴訟に関する供述はなかった旨記載されているから、右認定が誤りであるとはいえない。)」を付加し、一一四頁四行目の「二六」を「二五」と訂正し、末行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、別件逮捕は、いわゆる本件である本件殺人事件についての嫌疑が十分にして合理的な場合に限られ、この存在が絶対不可欠の基本条件であるのに、本件殺人事件の嫌疑については不十分な動機しかなく、合理的な嫌疑がないばかりか、反対に犯人でないと認定すべき一見して明白な事由が多数存在したから、本件の別件逮捕は違法であると主張する。

第一審原告甲野の右主張は、必ずしも明確ではないが、そもそも本件殺人事件についての嫌疑が十分にして合理的な場合で、逮捕、勾留の要件があるのであれば、適法に逮捕、勾留して被疑者を取り調べることができるのであって、いわゆる別件逮捕といわれるような捜査手法をとる必要性はなく、現実の問題として想起し難い上(第一審原告甲野は、逮捕できるだけの証拠資料がない場合であると主張するようであるが、嫌疑が十分にして合理的な場合であると判断するのは、通常そのように判断できるだけの証拠がそろっているからであると考えられる。)、嫌疑はあるものの逮捕できるだけの嫌疑がない事件でも、任意捜査にとどまる限りは、取調べをすることが許されるというべきである。そして、第一審原告甲野には、前記認定のとおり(原判決理由欄の第一、一、3)、本件殺人事件について不十分ながらも嫌疑が認められ、犯人でないと認定すべき一見して明白な事由が多数あるとは必ずしもいえないから、第一審原告甲野の右主張は、直ちに採用できない。

第一審原告甲野は、①本件被疑事実は、前記のとおり捜査を適正かつ十分に行えば犯罪が成立しないことが明らかになる事案であったこと、②本件被疑事実については、既にFが県警に全面的に協力し、裁判所からも資料の提供を受けていたので、後は第一審原告甲野を任意で取り調べるだけで事案の真相は究明でき、仮に、起訴するに足る事案であっても、偽証教唆罪を除き、第一審原告甲野が主張するような犯罪成立阻却事由がない限りその必要証拠が十分存在する平易な事件であり、特に民事事件がらみであるから逮捕しないで任意取調べを原則とすべきものであり、時期的にも県警では一般事件は検挙せず、検察庁への送致も停止する(原審証人Oの証言)年末の一二月一九日に逮捕するのであるから、本件被疑事実による逮捕があくまで本件殺人事件を取り調べることを真の目的とする別件逮捕であることは自明であること、③第一審原告甲野を逮捕した日から、関係者に対して本件殺人事件に関係する取調べを開始しており、このことは、本件逮捕が本件殺人事件を取り調べるために、第一審原告甲野を関係者から隔離するためのものであったことの証拠であること、④県警は一二月一九日に第一審原告甲野を逮捕したが、本件被疑事実についての取調べ未了のまま(取調べ未了を理由に一〇日間の勾留延長請求をしている。)同月二六日から本件殺人事件の取調べに入っていること、⑤原判決は、一二月二六日以後も本件被疑事実について県警が取り調べている旨説示するが、Fや裁判所の協力により、事前に大半の証拠が収集されていたから、真に犯罪が成立するならば起訴に必要な証拠収集は二、三日で可能であったこと、⑥原判決は、借用証書の入手先への聞き込みや貼付された印紙額の調査等の補充捜査も実際に行われていた旨判示するが、Fが本件借用証書を起訴状記載の日時ころ作成していることを供述し、第一審原告甲野もそのことはすぐ認めているのであるから、全く無用のものであり、本件被疑事実を捜査するために逮捕したという虚偽の主張を糊塗するための捜査にすぎないこと、⑦原判決は、本件被疑事実を悪質な犯罪だと判示するが、前述したことの他、民事訴訟では、特別のことがない限り偽証として問題にされることはないのが実情である上、Eも訴訟終結後約二年間も放置していたもので、県警に申告もしなかったごく一般のありふれた事犯であり、しかも十分捜査すれば犯罪が成立しない事案であること等を総合すると、本件逮捕の真の目的が本件殺人事件に関する取調べを行うための逮捕であった事実が明らかであると主張する。

しかしながら、右①の主張が採用できないことは、これまで述べたとおりである。右②の点についても、本件被疑事実による逮捕の理由及び必要性が認められることは、既に述べたとおりであり、また、逮捕の時期から直ちに本件被疑事実を取り調べることを真の目的とする別件逮捕であると認めるに足りない。右③の点については、第一審原告甲野が逮捕されたころ、同人の関係者に対して本件殺人事件に関する事情聴取をしていることが認められ(甲第八四号証ないし第九一号証、第一〇四号証等)、本件逮捕の時期に合わせて関係者の事情聴取に踏み切ったことは推認するに難くないが、本件被疑事実による逮捕の理由及び必要性が認められることに照らすと、右事実から直ちに本件逮捕が第一審原告甲野を関係者から隔離するためのものであったと認めることはできない。右④の点については、原判決が説示するとおり、本件殺人事件で第一審原告甲野の取調べを開始した後も、本件被疑事実に関する取調べを行い、それと並行して裏付け捜査も行っており、必ずしも本件殺人事件のみの捜査を行っていたものではない。右⑤の点については、本件被疑事実は、○○タクシーの経営権をめぐる争いに関係しており、複雑な事情もあったのであるから背景事情を含めて事案の真相を究明するためには、必ずしも第一審原告甲野のようにはいえない。右⑥の点については、被疑者が自白していても、その裏付け捜査が必要であることは、前述したとおりであるから、本件被疑事実を捜査するために逮捕したという虚偽の主張を糊塗するための補充捜査であるとは認められない。右⑦の点については、本件被疑事実が悪質な犯罪であることは、既に述べたとおりである。したがって、第一審原告甲野の右主張は、採用できず、本件逮捕の真の目的が本件殺人事件に関する取調べを行うための逮捕であったとは認められない。」

24  一一五頁六行目の「逮捕の」の次に「理由及び」を付加し、八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、逮捕の必要性が認められないとの点について、前記逮捕の必要性(本判決理由欄の一、21)において述べたとおり主張するが、これが採用できないことは、前述したとおりである。また、第一審原告甲野は、前項の別件逮捕の基本条件欠如の違法(本判決理由欄の一、23)において述べたとおりの主張をするが、これが採用できないことも前項で述べたとおりである。」

25  一一六頁八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決が、①第一審原告甲野に罪証隠滅のおそれがあったと判示している点について、前述したとおり、罪証隠滅のおそれは全くなかった、②第一審原告甲野には前科があり、妻が居住する和歌山市内の住居と松山市内の情婦方を行き来していて、居住状態が安定しておらず、また、本件被疑事実は重大な犯罪であったから、Yが、第一審原告甲野に逃亡のおそれがあると考えたこと自体特段不合理ではないと判示している点について、(1)原判決自体が理由欄の第二、五(逮捕の必要性の不存在について)において、『逃亡のおそれはともかく』と判示し、逃亡のおそれがあったとは言っていないことと矛盾すること、(2)捜査当時、捜査本部長であったQは、刑事公判において逃亡のおそれがあったとは考えていなかった旨証言していること(甲第一〇六号証)、(3)第一審原告甲野に古い前科があったからといって逃亡のおそれには結びつかないこと、(4)第一審原告甲野が和歌山と松山を往来していることが逃亡のおそれに結びつくというのであれば、家庭から離れた仕事場で働き、仕事場と家庭を往来する者はすべて逃亡のおそれありということになるので、首肯し難いこと、(5)前述したとおり、本件被疑事実は、仮に、犯罪が成立するとしても、軽微な犯罪であり、本件被疑事実で県警が捜査をしていることを第一審原告甲野が事前に知っても、同人自身はEに嫌がらせをしただけで悪いことをしたとは思っていなかったし、仮に、起訴され有罪となっても実刑に処せられるような事件ではなく、○○タクシーの経営や収入を投げ出して逃亡するほどのものではないこと、(6)Y報告書は、本件被疑事実について県警に協力し、物証を提出し、被疑者としての警察官面前調書の作成にも応じているFにも罪証隠滅及び逃亡のおそれありと記載する等条理に反する考え方をしており、この考え方は、第一審原告甲野についても通じること等を総合すると、逃亡のおそれはない、③Y報告書には、罪証隠滅のおそれに関して、架空の金銭借用書を作成したワープロや未使用の用紙、判決文その他の訴訟記録等の証拠品を処分する行為に出ることが予想される旨の記載があるが、ワープロや未使用の用紙は、本件被疑事実の立証に必要はなく、判決文その他の訴訟記録は既に裁判所から送付を受けているのに、あたかも第一審原告甲野が本件被疑事実を立証するために重要な証拠を処分するおそれがあるかのごとく内容虚偽の文書を作成して裁判官を騙し、逮捕状を騙し取ろうとした旨主張する。

しかしながら、右①の点については、罪証隠滅のおそれがあることは、前述したとおりである。右②(1)の点については、原判決が理由欄の第二、五(逮捕の必要性の不存在について)において、『逃亡のおそれはともかく』と判示しているのは、逃亡のおそれがないと断定的に判示しているのではなく、この点はおいても、少なくとも罪証隠滅のおそれは十分に認められるという趣旨であると解される。そして、捜査官において逃亡のおそれがあると判断していないのに、虚偽の内容の報告書を作成して逮捕状請求をしたとの第一審原告甲野の本項での主張に対する原判決の判示は、Yが捜査官として第一審原告甲野に逃亡のおそれがあると判断したこと自体は、原判決挙示の事情に照らせば、必ずしも不合理な判断であるとはいえず、故意に虚偽の内容の報告書を作成したとはいえないから、Yの行為は違法ではないという趣旨であると解され、必ずしも矛盾があるとはいえない。右②(2)の点については、Qの刑事公判における証言を通じて読むと(甲第一〇六号証)、必ずしも逃亡のおそれがあったと考えていなかった旨証言しているとはいえない。右②(3)ないし(5)の点については、逃亡のおそれがあるかどうかの判断は、これを肯定する要因と否定する要因とを比較衡量の上総合的に判断することになるから、個別の要因につき検討しても、それらを比較衡量の上総合的に判断する前提としてのものであることに留意する必要があるというべきである。そして、右②(3)の点については、確かに強姦及び傷害の前科は昭和三五年のものであるから、逃亡のおそれを判断する際にこれを重視するのは必ずしも相当とはいえず、慎重な考慮が必要ではあるが、逃亡のおそれを判断する際の事情の一つとして考慮することは許されるというべきである。右②(4)の点については、第一審原告甲野は、経営する○○タクシーのある松山市内に情婦を居住させ、妻子のいる和歌山と行き来しているのであるから、第一審原告甲野が主張するような単に仕事場と家庭を往来する場合とは、いささか事情を異にするというべきであって、居住関係が安定しないと判断することが必ずしも不合理とはいえない。右②(5)の点については、本件被疑事実が軽微であるといえないことは、前述したとおりであり、実刑に処せられるような事件でないとも断定できない。また、第一審原告甲野に詐欺の犯意が認められることも、前述したとおりである。もっとも、第一審原告甲野が○○タクシーを経営していることは、逃亡のおそれを否定する方向に働く要因であるが、右に述べたとおり、逃亡のおそれの判断は、諸要因を比較衡量した総合的判断であるから、右の事情を考慮に入れても、他の要因をも考慮して、逃亡のおそれがあると判断したからといって、殊更虚偽の内容の証拠資料を作り出したとはいえないというべきである。右②(6)の点については、Fに関する記載から直ちに第一審原告甲野の逃亡のおそれ及び罪証隠滅のおそれに関する記載が虚偽であるとはいえないというべきである。右③の点については、判決文その他の訴訟記録についてはともかく、ワープロや未使用の用紙については、罪証隠滅の余地があるから(それらが本件被疑事実の立証に必要がないとはいえない。)、Yが内容虚偽の文書を作成して裁判官を騙し、逮捕状を騙し取ろうとしたとは認められない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、理由がなく採用できない。」

26  一一七頁末行の「本件被疑事実に関する刑事公判(以下「刑事公判」という。)」を「刑事公判」と訂正し、一一八頁六行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、第一審原告甲野が会社へ出勤するべく車で走行中、追尾する車があったので、県立中央病院付近で車から降り、ついてこないよう文句を言ったところ、車に乗っていた警察官が逮捕する旨申し向けて警察車両に乗り移るよう指示し、その後部座席の警察官二名の間に座らせた行為は、第一審原告甲野の行動の自由を完全に奪う行為であって、それ自体逮捕行為である(被疑者が逃亡する危険のない場合に手錠をかけないことは実際にはよくあることである。)、単に任意同行を求めたにすぎないのであれば、第一審原告甲野は車を運転中であったから、車の処理を済ませてから警察へ行くはずであるが、逮捕すると言われたのでやむなく自車から警察車両に移ったのであると主張する。

しかしながら、原判決が説示するとおり、本件逮捕状には、松山東署において逮捕した旨の記載があり、同署で逮捕状を執行したものと認められることや、捜査員が第一審原告甲野に任意同行を求めた旨の原審証人Oの証言及び同人の陳述書(乙県第三二号証)に照らすと、第一審原告甲野が警察車両に移った時点で、警察官が逮捕すると申し向けたと認めるに足りない。もっとも、検察官送致の時間制限を免れる目的等で、表面上任意同行の形式をとりながらも、実質的に逮捕と同視すべき強制が加えられているような場合には、実質的な逮捕とみるべき場合があると考えられるが、本件では、第一審原告甲野に任意同行を拒否した形跡は窺われない上(警察官が逮捕すると申し向けたことが認められないことは、前述したとおりである。)、県警は、松山東署到着後すぐに第一審原告甲野に対し、逮捕状を執行しているところ(甲第一〇号証)、任意同行を求めた場所から松山東署までの距離は短く(甲第二三七号証)、時間的にもわずかであると考えられること等からすると、県警が検察官送致の時間制限を免れる目的等で外形上任意同行の形をとったとは認められない。」

27  一一九頁八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、逮捕現場にマスコミがいたかどうかについての原審証人Oの証言は、警察官である同人が立場上警察に不利益な供述をすることはできないから信用できないこと、原審証人N及び同Hの各証言は、いずれも伝聞である上、第一審被告毎日新聞や第一審被告産経新聞が知らないというだけでは、現場に他のマスコミがいなかったという断定はできず、かえって第一審原告甲野の供述書(甲第二三七号証)等によれば、マスコミの車三台がいたことが認められると主張する。しかしながら、原判決が説示するとおり、県警の警察官が、第一審原告甲野宅に報道関係者が多数いたことから敢えて同人宅において逮捕することを控えていることの他、松山東署の玄関付近に報道関係者が多数いたことから、第一審原告甲野を乗せた車が同署地下駐車場から入っていること(乙県第三二号証)等に照らすと、県警は、被疑者である第一審原告甲野の名誉に配慮していることが窺われるのであって、仮に、任意同行の際にマスコミがいたとしても、県警の警察官が、殊更、多数の報道関係者の見守る中で第一審原告甲野に対して任意同行を求めたとの事実を認めることはできないから、逮捕方法が違法であるとはいえない。」

28  一二一頁三行目の「前記認定のとおり、」から八行目の「疑問がある」までを「当時、第一審原告甲野には、第一審原告乙川が弁護人として選任されていたのであるから、警察官から脅迫的な取調べを受けたのであれば、第一審原告乙川にその旨訴え、同人を通じて県警に抗議するのが通常であると考えられるが、そのような行動をとった形跡がない」と訂正し、一二二頁四行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、違法な逮捕状請求行為に基づく身柄拘束中の取調べは違法であると主張するが、本件が違法な逮捕状請求行為に基づく身柄拘束でないことは、前述したとおりであるから、第一審原告甲野の右主張は、その前提を欠くというべきである。また、第一審原告甲野は、長い間わざと第一審原告甲野を直接取り調べないでおいて、別件で逮捕した後、急に日時の経過している日のことを尋ねることは、捜査の基本、鉄則から甚だしく遺脱するとともに、捜査に関する法令に違反した違法行為であるとも主張するが、第一審原告甲野主張の初期捜査の違法、任意捜査の違法、別件逮捕の違法等が認められないことは、前述したとおりであるから、第一審原告甲野の右主張も採用できない。」

29  一二二頁末行及び一二三頁末行の各「殺人事件」の次にいずれも「及びそれに関連して本件窃盗事件のあった同年一〇月一〇日のアリバイ」を付加し、一二三頁末行の「原告甲野」から一二四頁二行目の「考え難いのであり、」までを「本判決一、10で述べたとおり採用できず、」と訂正し、一二四頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、Hが和歌山の第一審原告甲野の知人、友人らに対して第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人である旨いやしくも警察官として言ってはならない事柄を告知していることに照らし、Hが警察官としての法令順守義務に違反し、軽々に違法事項を口にする習癖があるものと考えざるを得ない人物であるから、その証言の信用性は乏しく、他方、Iは警察官が言わないことまで言ったかのように嘘を言う必要はないし、Iが述べているようなHの言辞は想像で言えることではないと主張する。

しかしながら、Hが和歌山の第一審原告甲野の知人、友人らに対し、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人である旨述べたという点については、後述するとおり、これを認めるに足りる証拠はないから、Hが第一審原告甲野が主張するような人物であるとは必ずしもいえず、他に第一審原告甲野の主張を認め得る証拠はない。そして、原判決が説示する点をも併せ考慮すると、Hの原審における証言が信用できないとして一概に排斥することはできず、他に的確な証拠がない以上、Iの右証言からは未だ第一審原告甲野の主張事実を認めることができない。」

30  一二五頁初行の「右証言は、」から三行目の「あり、」までを「Jに対する取調べは、任意での取調べであり、しかも、第一審原告乙川から取調べ状況についてメモをとるよう指示を受けていたというのであるから(甲第八九号証)、仮に、右証言のとおりであるとすると、第一審原告乙川を通じて県警に抗議をしたり、取調べに応じないこともできたはずであるのに、そのような行動をとった形跡がないのは不自然であるといわざるを得ないから、」と訂正し、五行目末尾の次に「なお、右証言部分のうちJに対する取調べが脅迫的であったという点は、それが何故第一審原告甲野に対する不法行為となるのか明らかではなく、必ずしもその違法性を基礎付ける事実であるとはいえない。」を付加する。

31  一二五頁一一行目の「右3」から一二行目の「できず、」までを「警察官が第一審原告甲野を本件殺人事件の犯人であると断定的に言っていた旨の証言は、後述するとおり、県警が、第一審原告甲野の逮捕を発表するに際し、本件被疑事実による逮捕は別件逮捕ではないと断り、別件逮捕と受け取られることを警戒していたことに加え、Kが第一審原告甲野の弟の妻であること等に照らすと、警察官が第一審原告甲野を本件殺人事件の犯人であると断定的に言っていたと認めるにはなお疑問が残り、警察官が第一審原告甲野を本件殺人事件の容疑者の一人であると述べたことを誇張して述べているかあるいはこれを断定的な発言と受け取ったにすぎないとも考えられるから、右Kの原審における証言は、直ちに採用できず、」と訂正する。

32  一二六頁五行目末尾の次に「なお、第一審原告甲野の右主張は、Lに対する取調べが脅迫的であったというものであるが、そもそもそれが何故第一審原告甲野に対する不法行為となるのか明らかではないから、主張自体失当といわざるを得ない。」を付加する。

33  一二六頁九行目の「原告甲野」から一一行目末尾までを「そもそもそれが何故第一審原告甲野に対する不法行為となるのか明らかではないから、必ずしもその違法性を基礎付ける事実であるとはいえない。」と訂正する。

34  一二八頁初行の「ない。)、」の次に「警察官においてわざわざ第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であると公言して事情聴取を行う必要性があるとは考え難いことをも併せ考慮すると、」を付加し、三行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、Sは自動車の販売関係の仕事をしているから警察との関係が深く、警察に睨まれたら商売に差し支えるというのが社会の常識であること、Sは、警察官から第一審原告甲野が爆殺事件に関係があるので調べに来たと言われて第一審原告甲野が爆殺事件にどういう関係を持っていると感じたかとの質問に対し、『とんぼにそんなこと言われたもんで、私は全然寝耳に水という形で、そういう受け答えはお互いにしなかったと思うんですけど』と答えているが、寝耳に水という表現は思いがけないことを突然聞いた場合のことであり、単に爆殺事件に関係がある程度のことであれば寝耳に水というほどのことではなく、また、その警察官の言葉の後、何も警察官とそのことについて話をしなかった旨証言しているのも常識に反するから、警察官が言った言葉について何の質問もしなかったというのは決定的な寝耳に水の言葉を聞いたからそれ以上聞く必要もなかったものと推認するのが当然であると主張する。しかしながら、自動車の販売関係の仕事をしているから警察との関係が深く、警察に睨まれたら商売に差し支えるというのが社会の常識であるとは到底いえない上、第一審原告甲野が爆殺事件に関係があると聞いた場合、一般人としては驚くのが普通で寝耳に水という表現をしても不自然ではなく、また、警察官とそのことについて話をしなかったことが常識に反するとまではいえないから、第一審原告甲野の右主張は、採用できない。」

35  一二八頁七行目の「あり、」の次に「Mが事前に第一審原告甲野が本件殺人事件の関連で別件逮捕された旨の新聞を読んでいたこともあって(甲第八七号証)、第一審原告甲野が本件殺人事件に関係があるといった程度の警察官の言葉を犯人であると断定的に言ったと受け取ったことも十分考えられること、」を付加し、九行目の「あり、」を「あり(第一審原告甲野は、証言する際、最初は嘘を言ったり、言い渋っていた証人がいろいろ尋問されて最後に本当のことを言うことが多いことは裁判所にも顕著な事実であると主張するが、必ずしもそのようにはいえない。)、前述したとおり、警察官においてわざわざ第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であると公言して事情聴取を行う必要性があるとは考え難いことをも併せ考慮すると、」と訂正し、一二行目末尾の次に「なお、第一審原告甲野が当審で提出した甲第二四〇号証ないし第二四四号証をもってしても、右判断は左右されない。」を付加する。

36  一二九頁九行目の「逮捕した」の次に「(第一審原告甲野は、右認定は事実誤認であると主張するが、右主張が採用できないことは、前述したとおりである。)」を、一三〇頁初行の「ない」の次に「(第一審原告甲野は、決して軽微な犯罪ではないという認定判断は事実誤認であると主張するが、右主張が採用できないことは、前述したとおりである。)」を、五行目の「こと」の次に「(第一審原告甲野は、Oの否定は形式的であって、実質はこれを肯定し、本件被疑事実での逮捕と本件殺人事件の関係をレクチャーし、本件被疑事実の取調べが済めば本件殺人事件について取り調べることを肯定する言動をしていたと主張するが、これが採用できないことは、後に判示するとおりである。)」を各付加する。

37  一三一頁六行目の「ない」の次に「(第一審原告甲野は、原審証人Nは、第一審原告甲野が警察官に同行を求められたという報告を受けている旨証言しているところ、その報告を受けた時刻は、証言の前後を突き合わせると、午前一一時半よりも前ということになるから、毎日新聞の者も含めて誰かが同行を求められているところを見て、その情報が直ちにNにも伝わったのであり、報道関係者の前で同行要請をしたものではないとの原判決の認定は誤りであり、また、本件の場合、県警は、第一審原告甲野の逮捕を秘匿すべき特別の義務があるところ、第一審原告甲野を秘かに逮捕する方法はいくらでもあるのに、秘密裡の逮捕に努力するどころか第一審原告甲野の逮捕を公然と発表したのであるから、配慮しているとはいえないと主張する。しかしながら、N証言からは、必ずしも第一審原告甲野の主張するとおりには認められないし、仮に、任意同行の際に報道関係者がいたとしても、殊更報道関係者の前で任意同行したものでないことは、前述したとおりである。また、原判決が説示するとおり、県警に第一審原告甲野の逮捕を秘匿すべき特別の義務があるとは解せられないから、第一審原告甲野の主張は、採用できない。)」を付加する。

38  一三二頁七行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決が、①報道関係者が第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者の一人であると考えていたことをもって当然に本件被疑事実に関する正当な報道を自粛するよう申し入れるべきだったとはいえないと判示している点について、マスコミは、県警の情報操作により第一審原告甲野を最重要容疑者と思い込まされていたもので、単に容疑者の一人にすぎないと思っていたのではなく、このような場合には、本件被疑事実による逮捕と発表しても、マスコミが本件殺人事件の別件逮捕と報道することが当然に予想される事態であったから、県警は、本件殺人事件と関連させることのないよう自粛を求める義務がある、②第一審原告甲野逮捕を発表したのは、第一審原告甲野が本件殺人事件の被疑者の一人と考えられていた状況において誤報を防ぐためのものであったと判示している点について、第一審原告甲野は単に容疑者の一人と考えられていたのではないし、誤報を防ぐためというのは、本件殺人事件の別件逮捕であるという誤報を防ぐためというのであろうが、県警の現実の発表は、本件殺人事件についても追及する旨リークし、第一審原告甲野の顔写真を配付するなどし、また、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であるかのような情報をマスコミに流すこともしているのであって、原判決のいう誤報を防ぐどころか誤報をさせるための発表以外の何物でもない、③県警が第一審原告甲野を本件被疑事実で逮捕したことを発表したこと自体は、不当に第一審原告甲野の名誉を侵害するものではなく、違法行為ではないと判示している点について、県警は、第一審原告甲野を本件被疑事実で逮捕すべきではないし、逮捕してもこれを秘匿すべきであり、仮に、発表するとしても、本件殺人事件との関連を報道しないような特段の措置を講ずべき義務があったにもかかわらず、本件被疑事実で逮捕したことを発表しただけでなく、本件殺人事件でも追及するなどとレクチャーしたり、第一審原告甲野の顔写真を配付したことにより、第一審原告甲野を本件殺人事件の容疑者として本件被疑事実で逮捕した旨大々的に報道させて第一審原告甲野の名誉を侵害したもので、県警が第一審原告甲野の人権保護について負っている特別の注意義務に著しく違反した違法行為である等と主張する。

しかしながら、右①の点については、マスコミが、県警の情報操作により第一審原告甲野を最重要容疑者と思い込まされていたことを認めるに足りる証拠はないから、第一審原告甲野の主張は、その前提を欠くというべきである。右②の点については、原判決2(二)でも述べるとおり、県警が本件殺人事件についても追及する旨リークしたり、第一審原告甲野の顔写真を配付するなどしたことや第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であるかのような情報をマスコミに流したことを認めるに足りる証拠はない。右③の点については、前述したとおり、本件逮捕の理由及び必要性が認められ、違法な別件逮捕でないことは前述したとおりであるから、県警が第一審原告甲野を本件被疑事実で逮捕すべきでないとはいえず、逮捕してもこれを秘匿すべき義務があるといえないことも前述したとおりである。また、Oは、第一審原告甲野を本件被疑事実で逮捕した旨の発表をし、報道関係者からの本件殺人事件との関連性に関する質問にはこれを否定していたのであって(右に述べたとおり、本件殺人事件でも追及するなどとレクチャーしたり、第一審原告甲野の顔写真を配付したことを認めるに足りる証拠はない。)、それ以上に本件殺人事件との関連を報道しないような措置を講ずべき義務があるとは解せられない。したがって、第一審原告甲野の右各主張は、採用できない。」

39  一三四頁一一行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①原判決の右①の判示について、O、Qら警察官は、立場上県警に不利益な証言ができないから信用できない、②原判決の右②の判示について、甲第三六号証には、なるほど原判決の指摘する記事はあるが、それは形式的であり、同号証には、本件被疑事実が本件であるとの県警の説明があったとの記事とは反対の内容である『乏しい物証にも自信』とか『詐欺本件を突破口』との大見出しを出しているのであり、愛媛新聞としては、地元新聞なので県警の形式的説明を本文では書いているが、その説明とは反対の本件殺人事件解明のための逮捕であることが容易に分かる右大見出しを出したものであり、県警のいう説明なるものはあくまで一応の形式であって、右レクチャー等の存在を証明するものである、また、甲第五五号証の産経新聞は、県警が『別件逮捕ではないと発表した』旨の記事に続いて県警が自ら別件逮捕と公表するはずがない旨記載している他、標題は『別件による人権侵害を排せ』というものであり、『逮捕はいわゆる別件とみられてもやむを得ない状況であった』とも記載しているから、一応の形式発表では別件でないと県警が言っていただけのことであり、その形式発表があったということとレクチャーや写真配付の事実は別である、③原判決の右③の判示について、警察発表の際、本件被疑事実そのものが本件であるという説明があったということは聞いている旨のN証言も形式発表のことをいっているにすぎない、④原判決の右④の判示について、県警が本件被疑事実が本件で別件ではないとかなりしつこく言っていたと報告を受けている旨のH証言からは、県警の形式発表を記者が信用しないで疑念を呈していたことが推認される、⑤原判決が、第一審原告甲野の写真配布について、N証言の他に右証言に沿う証拠がなく、H証人は写真が配付されたことは確認していない旨証言していると判示している点について、甲第二四五号証の新聞のとおり、毎日新聞に掲載されている第一審原告甲野の写真と全く同一の写真が掲載されている事実が判明したから、右H証言は虚偽か忘れているかのどちらかであると主張する。

しかしながら、右①の点については、右O、Qらが警察官であるからといって、そのことをもってその証言がすべて信用できないとは直ちにはいえないから、理由がない。右②の点については、愛媛新聞の記事を通覧すると、県警は、逮捕事実それ自体が本件とコメントし、別件逮捕との見方を否定しているとの事実を報道しながらも、愛媛新聞の見方としては本件逮捕は本件殺人事件を追及するためのものであるとの記事を掲載しているとみられるのであって、第一審原告甲野の主張は、憶測の域を出ないというべきである。また、第一審原告甲野が指摘している産経新聞の記事は、産経新聞の意見であることが明らかであるから、これをもって県警がレクチャーや写真配付をした事実を推認することはできない。右③の点についても、形式発表にすぎないというのは、第一審原告甲野の主張にすぎず、これを認めるに足りる証拠はない。右④の点については、記者が県警の発表を額面どおりに受け取らず疑念を呈していたことは、その報道をみても窺われるが、もともとマスコミは、第一審原告甲野を本件殺人事件の容疑者の一人としてマークしていたのであるから(前記認定)、そのような状況の下で、県警の発表を記者が額面どおりに受け取らず疑念を呈したとしても、それは、記者の受取方の問題であって、直ちに県警のレクチャー等には結びつくものではない。右⑤の点については、確かに、甲第二四五号証によれば、読売新聞に、毎日新聞に掲載されている第一審原告甲野の写真と同一の写真が掲載されている事実が認められるが、仮に、県警が写真を配布したとすれば、少なくとも実名報道した第一審被告産経新聞、同大阪新聞等にも掲載されるのではないかと考えられるが、これらの新聞には掲載されていないことに照らすと、右の事実は、必ずしもH証言の信用性に影響を及ぼすものではない。

なお、第一審原告甲野は、N証言のいうレクチャーが存在した証拠は、何よりも各有力新聞がほとんど同一内容で、『県警は爆殺事件についても追及する』旨の記事を掲載していることであり、右レクチャーがなければ、一斉にこのような記事が掲載されるはずがないと主張するが、原判決も説示するとおり、報道関係者は、本件被疑事実による逮捕以前から、第一審原告甲野を容疑者の一人としてマークしており、第一審原告甲野が県警にマスコミによる被害を訴えたこともあったのであるから(甲第六四号証、乙県第二〇号証、第二三号証)、右の記事は、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人ではないかという新聞社の一致した見方を反映したものとも考えられ、必ずしもレクチャーの存在を示すものとはいえない。したがって、第一審原告甲野の右各主張は、いずれも採用できない。」

40  一三五頁末行から一三六頁初行にかけての「を否定することはできず、」を「が違法であるということはできず、」と訂正し、一三六頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、第一審原告甲野が本件殺人事件の容疑者として報道されないようにする特別の義務が県警に生じているのに、県警は、形だけ否定して、実際は本件殺人事件の容疑者として報道するよう仕向けた発表であると主張するが、これが採用できないことは、前述したとおりである。

一三 本件逮捕状執行の違法(請求原因2(一四))について

第一審原告甲野は、請求原因2(一四)のとおり主張するが、県警が本件逮捕の理由及び必要性があるとして本件逮捕状を請求し、これが認められて本件逮捕状が発付されたにもかかわらず、特段の事情もないのにその執行を差し控えることは、罪証隠滅等の捜査上の支障が生じることも十分予想されるから、そのような義務が県警にあるとは認められない。そして、第一審原告甲野が主張するマスコミ報道の過熱は、右特段の事情には当たらないというべきであるから(なお、第一審原告甲野は、本件殺人事件のアリバイがあり、第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人であることを疑うに足る証拠はないと主張するが、右主張が認められないことは、前述したとおりである。)、第一審原告甲野の右主張は理由がない。

一四 第一審原告甲野は、仮に、一つ宛の事項では国家賠償法上の違法性が認められなくとも、県警の前記全行動を総合すれば、国家賠償法上の違法性は優に認められると主張するが、県警に第一審原告甲野主張の違法事由があると認められないことはこれまで述べてきたとおりであり、県警の行動を総合的にみても、右認定判断は動かないから、右主張は、採用できない。」

41  一三六頁六行目の「第二」を「第三」と、八行目の「別件逮捕で」を「前記請求原因2(八)記載のとおり(前記付加部分を含む。)の理由により、別件逮捕の基本条件を欠如しているから」と訂正し、一三七頁初行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①本件逮捕は違法な別件逮捕である、②有罪の判決が確定していることは、そのとおりであるが、右有罪判決は、法令の解釈適用の誤り、事実誤認等に基づくもので、最近得た資料により再審請求を予定しており、また、民事判決は刑事判決と異なる事実認定をしてもよいことは判例の示すところであり、本訴において刑事裁判では得られなかった事実もあるから有罪の判決が確定していることは顧慮すべきでなく、民事裁判所の公正、公平な判断に従って裁判をすればよいことである、③本件被疑事実は、証拠を正しく採用、評価して慎重に判断すれば到底起訴すべき事案ではないと主張する。

しかしながら、右①の点については、本件逮捕が違法な別件逮捕でないことは、前述したとおりである。右②の点については、本訴裁判において提出された証拠を検討しても、本件被疑事実の成立が認められることは、前述したとおりである。右③の点については、後述するとおり、本件被疑事実が起訴すべき事案でないとはいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、いずれも採用できない。」

42  一三七頁四行目の「検察官は」から一一行目末尾までの「本件殺人事件の捜査を究極の目的とする別件逮捕は違法であり、違法な逮捕に基づく勾留請求はそれだけで違法であり、また、勾留請求自体もその究極の目的が第一審原告甲野を犯人と疑うに足る証拠のない本件殺人事件の被疑者として捜査するためのものであるから違法であると主張するが、本件逮捕が違法な別件逮捕でないことは、前述したとおりであるから、違法な逮捕に基づく勾留請求とはいえず、また、別件逮捕について述べたのと同様の理由により、本件勾留請求が違法であるともいえないから、第一審原告甲野の右主張は理由がない。」と訂正する。

43  一四〇頁初行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①本件逮捕の理由はない、②本件被疑事実についてはいずれも犯罪の成立が認められず、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれもないから勾留の理由はなく、勾留の必要性もないと主張する。

しかしながら、右①の点については、本件逮捕の理由があることは、前述したとおりである。右②の点については、刑事訴訟法二〇七条一項、六〇条一項所定の『罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由』とは、その嫌疑を肯定する客観的、合理的な根拠(理由)があることをいうが、前述したとおり、捜査段階での嫌疑であるから、有罪判決の事実認定に要求される合理的疑いを超える程度の高度の証明は必要でなく、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までも要求されていないところ、原判決が挙示する証拠やその判示するところによれば、第一審原告甲野が『罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由』があると認められる(第一審原告甲野は、原判決が勾留の理由及び必要性を判断するに当たり、勾留請求までに収集したとする証拠を挙示していることについて、原判決は、第一審原告甲野の主張をすり替え、第一審原告甲野の主張に対する判断をしていないと主張するが、右に述べたとおり、『罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由』を判断するには、最終的に犯罪が成立するかどうかまでを判断する必要はないのであって、勾留時において、犯罪の嫌疑について相当な理由が認められればよいのであるから、勾留時までに収集した証拠を検討するのは当然である。)から、第一審原告甲野の主張は、理由がない。また、罪証隠滅のおそれ、勾留の必要性が認められることも原判決説示のとおりである。」

44  一四一頁六行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①原判決の右①の判示について、第一審原告甲野の検察官面前調書は、弁護人が検察官の良識を信じ、検察官に逆らうなとの誤ったアドバイスをしたことに基づき作成されたものである、②原判決の右②の判示について、いわゆる毒にも薬にもならぬどうでもよいことについては、殊更被疑者に有利な事項を録取し、検察官面前調書の信用性を得るように配慮して検察官面前調書を作成することは、捜査上の一つのテクニックとされており、本件がまさにその一例である、③原判決の検察官弁解録取書(甲第一一〇号証)についての判示について、第一審原告甲野が、警察や検察庁は被疑者の言い分を聞き入れてくれないと思っていたこと、私文書偽造は嘘の借用書を作れば私文書偽造になると誤信したこと、検察官が尋問の際文書偽造のことだけを言って、間違いないかと尋ねたので、間違いないと答えたことによると主張する。

しかしながら、右①の点については、証拠(甲第一六二号証)及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告乙川は、第一審原告甲野に正直に話すようにという趣旨でそのように述べたというのであり、必ずしも事実に反することまでを認めるようにアドバイスしたものとは解されず(弁護士法一条の弁護士の職責からいっても当然のことである。)、現に、第一審原告甲野は、次にも述べるように、検察官の質問に対し、そのとおりであると述べずに、自己の主張を調書に記載してもらっている部分があるのである。右②の点については、原判決が指摘している箇所以外にも、Eが経営する△△タクシーの専務に本件借用証書の貸金を支払ってくれるよう請求したことはない等詐欺の犯意に関係する重要な事項について自己に有利な供述をしている部分があること(甲第七二号証)等に照らすと、第一審原告甲野の主張は、採用できない。右③の点については、その後作成された検察官面前調書においても(真実に反する供述を押しつけたと認められないことは、前述したとおりである。)本件被疑事実を認める供述をしていること等に照らし、採用できない。」

45  一四一頁八行目の「主張をするが、」を「主張をするところ、Fに対する取調べの違法が何故第一審原告甲野に対する不法行為となるのか明らかではないが、この点は、次の公訴提起の違法の理由として意味があるとも考えられるので、以下判断するに、」と訂正し、一四二頁初行の「犯意」の次に「が」を付加し、五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、Fの刑事公判における証言は変転しているが、結局は、弁護人の尋問に対する答えの方が検察官面前調書の記載よりも正しいと断言したこと、Fの検察官面前調書には、『Eから金を取ってやろうという気はそれほどおこりませんでした。ですがEをやっつけるのなら甲野の裁判に協力してEから裁判に勝って金を取るのもいいと思いました』との供述部分があるが、Fは、警察官に対しては終始一貫して甲第六号証の持分権譲渡契約書があるから、本件借用証書で金を取るなどとは全く思いませんでしたという趣旨の供述をしており、aも右供述は真実だと思った旨本訴において証言していること等から、Fの検察官面前調書は検察官の押しつけによるものである等と主張する。

確かに、Fが、刑事公判において、弁護人の尋問に対する答えの方が検察官面前調書の記載よりも正しい旨供述しており、また、警察官面前調書の内容も第一審原告甲野主張のとおりであるが、一方で、Fは、検察官面前調書に事実と違うことが記載されているのに署名押印した理由について質問されても合理的な説明ができないのであって、Fの検察官面前調書が同人が釈放されてから作成されていること、その内容も他の関係証拠に照らし必ずしも不自然、不合理とはいえないこと等を併せ考慮すると、Fの検察官面前調書が検察官の押しつけによるものであるとは認められない。」

46  一五〇頁一二行目の「第八二号証」を「第八三号証」と訂正する。

47  一五六頁四行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、本件被疑事実につき犯罪が成立しない理由として縷々主張するが、原判決が説示するとおり、刑事事件において無罪の判決が確定した場合でも、公訴提起当時において、検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、右公訴の提起は違法性を欠くから、右の観点から公訴提起当時において有罪と認められる嫌疑があるかどうかを考慮すれば足りるというべきである。しかるところ、原判決が本項(原判決理由欄の第二、四、1)で説示している理由に加え、前述したところによれば(本件被疑事実の成立について判断している箇所)、本件公訴提起が違法であるとはいえない。ちなみに、本件は、刑事事件において無罪の判決が確定した事案ではなく、前述したとおり、有罪の判決が確定しており、その判断に誤りがないことも、前述したとおりである。したがって、第一審原告甲野の主張は、採用できない。」

48  一五七頁初行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、本件被疑事実は、可罰性はなく、通常であれば当然起訴猶予となる事案であり、また、本件は、重大な凶悪犯罪である本件殺人事件について直接証拠はもちろん間接証拠もなくアリバイがあることも分かっていながら第一審原告甲野を最重要容疑者と認定し、その認定をしながら任意取調べを一切せず、別件逮捕により身柄を拘束して取り調べることを決定し、別件事実についても慎重に捜査すれば犯罪が成立しないことが判明するのにその捜査を怠ったか、あるいは犯罪が成立しないことを知っていたかのいずれかにより、いきなり別件で公然逮捕してこれを発表し、県警のリーク及びレクチャーによりマスコミをして一斉に第一審原告甲野を本件殺人事件の被疑者であるかのように報道させて、その名誉、財産を失う大損害を与えたのに、真犯人Cに対し本件殺人事件につき本格的捜査を行うことを告知するに等しい道具類の任意提出要求の前日で、Cに本件殺人事件の犯人と疑うに足るポリグラフ検査結果が出た当日、検察官面前調書の作成を強行し、その作成が終わるや否や急遽第一審原告甲野を別件である本件被疑事実で起訴したものであり、甚だしい公訴権濫用に当たると主張するが、本件被疑事実が可罰性がないといえないことは、原判決説示のとおりであり、また、第一審原告甲野の公訴権濫用の主張の前提となる事実(第一審原告甲野がこれまで第一審被告愛媛県及び同国に対し主張してきた違法事由等)を認めるに足りる証拠がないことはこれまで説示してきたとおりであるから、第一審原告甲野の主張は、採用できない。」

49  一五七頁二行目の「第三」を「第四」と、一六〇頁七行目の「原告ら」を「第一審原告甲野ら」と各訂正し、一六三頁八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「3これに対し、第一審被告毎日新聞は、次のとおり主張する。すなわち、警察発表は、形式的に発表文を読み上げ、一応別件逮捕でない旨発言することはあっても、実質発表としては、レクチャーによる発表をし、逮捕に踏み切った事情を発表するものである。証人Nは、警察発表のほとんどが本件殺人事件であったとの報告を受けている旨証言しているところ、右が真実でなければ、何故に三、四〇分もの長い間レクチャーをすることがあるのか、何故新聞各社の記事内容がほとんど共通となるのか疑問である。特に、右証人Nは、第一審原告甲野の写真までも提供を受けた旨証言しているところ、第一審原告甲野の写真は、単に第一審被告毎日新聞のみならず、甲第二四五号証の読売新聞にも同一の写真が掲載されているところであって、各新聞社が競っている状況の中で、同一の写真を、同時に、偶然入手することはあり得ない。したがって、右N証言は真実であり、県警発表、レクチャー等により第一審被告毎日新聞が第一審原告甲野の本件殺人事件に関する嫌疑を信じたことに相当の理由がある。

しかしながら、第一審被告毎日新聞の主張する事実が認められないことは、請求原因2(一三)について判断したとおりであるから(原判決一二九頁六行目から一三六頁五行目まで〔付加、訂正部分を含む。〕)、右事実を前提とする第一審被告毎日新聞の主張は、理由がない。」

50  一六三頁九行目の「3」を「4」と、一一行目の「第四」を「第五」と各訂正し、一二行目の「(一)」の次に「及び(二)」を、末行の「本件記事(二)」の次に「及び本件記事(二)の2」を各付加する。

51  一六五頁二行目末尾の次に「また、本件記事(二)の2は、最上段に横書きで『松山の紙箱爆弾事件』、次段に横書きで『被害者と金銭トラブル』の大見出しを、次に、『有印私文書偽造などで』、『タクシー会社社長ら2人逮捕』の縦書きの中見出しを掲げた上で、右の本件記事(二)と同一内容のリード部分及び本文記事が記載されている(甲第三五号証)他、更に、縦九センチメートル、横一〇センチメートルの大きさで『有限会社○○タクシー』の看板を掲げている同社の社屋兼ガレージの中に自動車二台が入っている写真とその下部に横書きで『甲野が社長を務めている〔○○タクシー〕=松山市末町甲で』と説明文が付加されている。」を付加し、三行目の「本件記事(二)は、」から六行目の「かけられているものとか、」までを「本件記事(二)及び本件記事(二)の2は、その見出し、本件殺人事件の概要とその被害者である第一審被告丙山と第一審原告甲野との間にトラブルがあったことの記載、県警が、第一審被告丙山の爆殺を狙った犯行とみて、第一審被告丙山とトラブルがあった者のリストアップを進めているとの記載等からすれば、一般読者をして第一審原告甲野が本件殺人事件と関連がある者として県警にリストアップされているのではないかという印象を与える記事であるといえる(この点についての判断は、後述する。)。しかし、それ以上に、第一審原告甲野に本件殺人事件について相当な嫌疑をかけられているとか、」と訂正し、七行目、一六六頁六行目、七行目及び八行目の各「本件記事(二)」の次にいずれも「及び本件記事(二)の2」を付加し、一一行目の「関連を」から末行の「とか、」までを「関連がある者として県警にリストアップされているのではないかという印象を与える記事ではあるものの、それを超えて第一審原告甲野が本件殺人事件に関する濃厚な嫌疑をかけられているとか、」と訂正する。

52  一六七頁初行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①甲第四号証の『紙箱爆弾事件の被害者に多額借金』の大見出しの下に、第一審原告甲野らを有印私文書偽造などで逮捕した旨の小見出しを付け、リード部分に本件殺人事件の被害者である第一審被告丙山から約四〇〇〇万円の借金をしていた第一審原告甲野らが県警に逮捕された旨の報道内容は、その記事の内容とそのスペースの大きさからして、まさに一般読者に対し、第一審原告甲野に本件殺人事件についての嫌疑が具体的にかけられているとか、別件逮捕であると示唆するものであり、本件殺人事件の犯人と判断して逮捕したのであろうと考えるのが常識人の判断というものである、②甲第三五号証によると、本件記事(二)の2の内容は本件記事(二)と大同小異であるが、本件記事(二)の2では、第一審原告甲野の経営していた○○タクシーの車庫やタクシーの写真まで大きく掲載しているところ、第一審原告甲野が単に本件殺人事件に何らかのかかわり合いを持った人物にすぎなければ会社の写真まで掲載することはないから、一般読者をして第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人との嫌疑を受けて逮捕されたものと判断させるに足るものである、仮に、一般人に単なるかかわり合いを持っている旨の判断をさせても、第一審原告甲野は本件殺人事件に何のかかわり合いも持っていなかったのであるから、第一審原告甲野の名誉を害し、ひいては各種の損害を与えることに寄与するものである等と主張する。

しかしながら、右①の点については、既に原判決が詳細に説示しているとおりであり、採用できない。右②の点については、第一審原告甲野は、当時○○タクシーを経営していたのであり、また、本件被疑事実は、本件記事(二)の2にあるように、逮捕当時○○タクシーの社長であった第一審原告甲野が、以前、○○タクシーに対し貸金債権を有しているとの架空の事実を作出するために金銭借用証書を偽造した等というものであるから、本件記事(二)の2の本文を併せ読めば、その関連で写真を掲載したと受け取るのが普通であり、○○タクシーの写真を掲載したからといって、必ずしも第一審原告甲野が本件殺人事件の犯人との嫌疑を受けて逮捕されたものと判断させるものであるとはいえない。また、本件記事(二)及び本件記事(二)の2の記載は、前述したとおり、一般読者をして第一審原告甲野が本件殺人事件と関連がある者として県警にリストアップされているのではないかという印象を与えるものであり、第一審原告甲野の社会的評価の低下を招くおそれがあることは否定できないが、本件記事(二)及び本件記事(二)の2に事実に反する記載はなく、県警が第一審原告甲野を容疑者の一人として考えており、実際に第一審原告甲野を本件殺人事件で取り調べたことも事実である。そして、本件記事(二)及び本件記事(二)の2の内容及び弁論の全趣旨によれば、本件記事(二)及び本件記事(二)の2の記載が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものと認めるから、本件記事(二)及び本件記事(二)の2に違法性があるとはいえず、右主張も採用できない。」

53  一六八頁末行の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、甲第二三〇号証の2及び同第二四六号証を引用し、原判決の右判断は誤りであると主張するが、右証拠によっても右判断は左右されない。」

54  一六九頁初行の「第五」を「第六」と、一七〇頁一一行目から一二行目にかけての「明らかとなったと」を「明らかとなったとの」と各訂正し、一七一頁二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「  第一審被告大阪新聞は、本件記事(三)は、第一審原告甲野に本件殺人事件に関する相当の嫌疑がかけられている内容となっていること自体を否定するものではないが、それ以上に、同人が真犯人であるとの事実を摘示し、又は真犯人であるとの印象を与える記事内容であるとまでは認定し得るものではないから、第一審原告甲野の社会的評価を低下させる程度としてもその程度にとどまると主張するが、原判決が説示するとおり、本件記事(三)は、第一審原告甲野が本件殺人事件の真犯人であるとの印象を与える記事内容というべきであるから、右主張は、採用できない。」

55  一七二頁四行目の「である旨」を「であるとの嫌疑がかけられていることが」と訂正し、一七三頁六行目の次に改行して次のとおり付加する。

「 3 第一審被告大阪新聞は、次のとおり主張する。

(一)  本件逮捕当時、第一審原告甲野に本件殺人事件に関して重大な嫌疑が存し、現実に、別件逮捕と解すべき本件逮捕がされているのであるから、本件記事(三)は客観的事実を伝えるものと認定すべきである。すなわち、本件被疑事実は、第一審原告甲野が主張するようにそもそも立件すべき事案であるか疑問であるし、また、逮捕の必要性を認めることも困難な事案であるから、本件逮捕は、客観的事実として明確に別件逮捕である。

(二)  別件逮捕であれば、当然、違法捜査の問題が生じるのであるから、現実に警察が別件逮捕であると明言して別件逮捕することはないのであって、このような発言があったからといって、これを鵜呑みにして本件殺人事件と何ら関係のない逮捕であると考えることは経験則上不適当である。反対に、当時、第一審原告甲野が本件殺人事件の容疑者の一人として捜査が進められていたことは、Oらの証言においても明らかであり、また、本件殺人事件が世間の注目を集め、捜査状況について極めて重大な関心が寄せられていた中で逮捕し、しかも、敢えて、別件逮捕でないと発表せざるを得なかったことからしても、むしろ、第一審原告甲野に本件殺人事件の重大な嫌疑が存在したことを認定する事情となるものである。

(三)  以上を総合すると、本件逮捕当時、第一審原告甲野に本件殺人事件の嫌疑が存在したと認めることが相当であるし、本件逮捕を別件逮捕と表現し、報道することは客観的真実を報道したものであって、第一審被告大阪新聞が損害賠償義務を負うものではない。

しかしながら、第一審被告大阪新聞の右主張は、本件逮捕が別件逮捕であることを前提とするものであるが、これが認められないことは、前述したとおりであり、また、本件記事(三)は、第一審原告甲野に本件殺人事件の嫌疑が存在するにとどまらず、第一審原告甲野が本件殺人事件の真犯人であるとの印象を与える記事内容であり、それについて真実性の証明がないことは、右の述べたとおりであるから、第一審被告大阪新聞の右主張は、採用できない。」

56  一七三頁七行目の「3」を「4」と、九行目の「第六」を「第七」と各訂正し、一七六頁三行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決が、①第一審被告丙山が本件殺人事件発生の翌日、警察官に対してCが一番怪しいと答えたと判示している点について、甲第四四号証の新聞によると、本件殺人事件の真犯人がCと判明した時点で、第一審被告丙山は記者に対し、『動機面で狙われる心当たりがないことを強調し、何度も信じられない』と繰り返していた事実が認められ、甲第四五号証の新聞でも、第一審被告丙山が記者に、『私への恨みが動機とは』と話し、Cを疑っていなかった事実が明らかであるから、原判決の判示は誤りである、②第一審被告丙山において、第一審原告甲野が犯人かもしれないと警察官に言ったのは、その数日後であると判示している点について、甲第一五号証の2の論告要旨に記載されているように、検察官は、『爆殺事件直後に丙山が捜査官に対して犯人は被告人と思われるなどと供述していた』旨陳述しているから、原判決の右判示は誤りである、③第一審原告甲野の行動には第一審被告丙山に不審を抱かれても仕方のない点もあったと判示している点について、第一審原告甲野が本件殺人事件当日の行動について、会う人ごとに異なる説明をしていた事実はあるが、これは女性のことを隠す必要があり、かつ前述のとおり真犯人でない気安さから前に言っていたことを記憶しておらず、適当に言っただけのことであって、真犯人であれば同じ嘘を言うはずであることと対比して、かえって真犯人でないと判断すべきものである、④第一審被告丙山が虚偽の事実を並べたてて第一審原告甲野が犯人であると積極的に申述したものではないと判示している点について、乙県第二九号証によると、第一審被告丙山は警察官に積極的に第一審原告甲野の人相などをあげ、第一審原告甲野が犯人であることは間違いない旨申し向けている事実が認められると主張する。

しかしながら、右①の点については、第一審原告甲野主張の記事は、第一審被告丙山において、Cが逮捕された際に新聞記者に述べた話にすぎないから、必ずしも第一審被告丙山が、本件殺人事件発生の翌日に、警察官に対してCが一番怪しいと答えたことの認定を左右するものではなく、前記認定のとおり、県警がCに対し、早い段階からポリグラフ検査をしたり、アリバイ捜査をしていること等に照らすと、原判決の認定には事実誤認がないというべきである。右②の点については、第一審被告丙山が警察官に対し、第一審原告甲野が犯人かもしれないと言ったのは、広い意味では、爆殺事件直後といって差し支えないから、原判決の認定が誤りであるとはいえない。右③の点が採用できないことは、前述したとおりである。右④の点については、第一審被告丙山は、警察官から、本件殺人事件の被害者として犯人の心当たりについて聞かれ、原判決が説示するような理由から第一審原告甲野が犯人ではないかと答えたものであり、原判決が説示するとおり、自分の方から積極的に虚偽の事実を並び立てて第一審原告甲野が犯人であると警察官に申し立てたとはいえない。したがって、第一審原告甲野の右主張は、理由がない。」

57  一七七頁一二行目の「引き渡そう」の次に「と」を、一七八頁三行目の「なかった」の次に「(第一審原告甲野は、乙県第二九号証によれば、第一審原告甲野の弟を介して第一審被告丙山と第一審原告甲野間に連絡があったことが認められると主張するが、右証拠によっても、第一審原告甲野から連絡があったとは認められない。)」を各付加し、一八一頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、①原判決の右①の第一審被告丙山が第一審原告甲野に対して虚偽の申し入れをしてまで強制執行を継続したとは考えにくいという判示について、原判決の右③の第一審被告丙山が強制執行の申立てを取り下げる旨虚言を弄したとは考えにくい旨の判示と正反対の判示であって、理由に食い違いがある、②乙鵜第四号証の手紙に、違約を責める記載がないのは、第一審原告甲野がその時点では第一審被告丙山と力を合わせたい気持ちがあったからであり、第一審被告丙山が違約をしたことについて怒ってはいたが、そのことを表に出すと第一審被告丙山と協力できなくなるから、第一審被告丙山に文句を言わなかっただけのことである、③乙鵜第三号証の手紙に、第一審被告丙山に○○タクシーの経営権を取得させてあげたい、二〇〇〇万円を用意してくれれば○○タクシーの経営権を取得することが可能である旨記載されている点について、Fが新たに八〇〇万円の借金をし、更に○○タクシーの社員持分権を担保に一〇〇〇万円の借金をしようとしていて、そのまま放置すればFが借金を次々と重ねて、取り返しのつかないことになると心配した第一審原告甲野が第一審被告丙山に二〇〇〇万円を出してもらって危ない借金を返して当面の資金繰りをつけ、Fを説得して○○タクシーを第一審被告丙山に売らせて事態を収拾しようとしたために出したものであり、このことは、第一審被告丙山が第一審原告甲野に強制執行を停止すると告知したこととは関係がない、④第一審被告丙山が強制執行の申立てを取り下げる意思がないのに取り下げる旨虚言を弄したことは、(1)乙県第二九号証によると、第一審被告丙山は、昭和六三年一一月二一日、病院で第一審原告甲野に対し、何回も○○タクシーを取得する意思が全くないことをはっきりと告知しているところ、○○タクシーが要らないというのは、○○タクシーの社員持分権が要らないということと同義であること、(2)弁護士の第一審原告乙川が第一審原告甲野に最初に面会したとき、第一審原告甲野から、第一審被告丙山が強制執行を取り止めると言ってくれているから差押えの件は大丈夫であると聞いており、このことは、第一審原告乙川が和歌山地方裁判所に照会して強制執行が続行されていることを知り、主任検事にその旨第一審原告甲野に連絡してもらいたいと頼み、同検事がそのころその旨を第一審原告甲野に連絡していること、第一審原告乙川と弁護士Zが松山地方裁判所裁判官に出した上申書(甲第九五号証)において、右事実について記載していることからも明らかである、(3)Fの刑事公判での証人尋問調書(甲第五七号証)には、大要、Fが第一審被告丙山に三五〇〇万円を払うと言ったら、差押えはないことにするとか急がんでもよいなどと第一審被告丙山が答えた旨の記載があり、本訴の原審においても、大要『三五〇〇万円を私が調達してくるから差押えはやめてくれと言ったら、第一審被告丙山は急がんでもよい、犯人が分かるまでは構わんからと答えた』旨、『爆弾事件の犯人が分かるまでという条件がついた理由はわからない。第一審被告丙山がそう言ったから、自分もそれを真に受けた。強制執行をやめるという理由について第一審被告丙山からの説明はなかった』旨証言し、また、乙県第二九号証では、第一審被告丙山が第一審原告甲野に『Fがこないだ来て金を二五〇万円ずつ返すと言いよった』と告知した旨記載され、Fの右供述を裏付けており、第一審被告丙山がFにも第一審原告甲野に対して告知したと同様のことを言っていることからも明らかである等と主張する。

しかしながら、右①の点については、原判決は、同じことを判示しているものと解されるから、理由に食い違いがあるとはいえない。右②、③の点については、第一審原告甲野は、第一審被告丙山の虚言により一億円の価額がある○○タクシーの経営権を喪失したとして損害賠償を請求しているのであり、それだけの価値のあるものを失ったとすれば、到底乙鵜第三、四号証のような記載にはならないはずであり、第一審原告甲野の主張を前提とする限り不可解な手紙の内容であるといわざるを得ない。右④(1)の点については、確かに、第一審被告丙山に○○タクシーを取得する意思がなくなったことが認められるが、そうなると第一審原告甲野に交付した金員を返還してもらう必要が出てくるのであり、そのための社員持分権に対する強制執行であるから、第一審被告丙山が○○タクシーを取得する意思がなくなったからといって強制執行の申立てを取り下げるということには結びつかないというべきである。また、第一審被告丙山において○○タクシーを取得する意思がなくなったことは、第一審被告丙山が虚言を弄して○○タクシーの社員持分権を取得しようとしたとの第一審原告甲野の主張が認められない方向に働く事実ということになる(第一審被告丙山が譲渡命令を申し立てたとしても、それは、第一審原告甲野に対する貸金を回収するための手段と考えられる。)。右④(2)の点については、第一審原告甲野が第一審原告乙川に第一審原告甲野主張のようなことを述べたことがあったとしても、第一審被告丙山の原審における供述によれば、第一審原告甲野から社員持分権の買手がいるのでそれに売却した代金で借金を返済するという話があり、第一審被告丙山がそれでもよいと答えたことが認められるところ、第一審原告甲野において、右の答えを、強制執行の申立てを取り下げるという趣旨に受け取った可能性も考えられるから、必ずしも第一審原告甲野の主張事実を認めるに足りない。右④(3)の点については、F証言によれば、第一審被告丙山は、せっかくFから三五〇〇万円を支払うとの申入れがあるのに、本件殺人事件の犯人が分かるまで支払ってもらわなくともよいという趣旨のことを述べたというのであるが、第一審被告丙山がそのようなことを述べる理由が明らかではなく、第一審被告丙山がFの右証言を強く否定していることに加え、これまでに説示したことにも照らすと、右F証言は、たやすく採用できない。したがって、第一審原告甲野の主張は、採用できない。」

58  一八一頁七行目の「第七」を「第八」と訂正し、一八二頁六行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、共同不法行為の成立には、行為の共同性を必要としないから、原判決の判断は誤っていると主張するが、共同不法行為の成立には、各行為者の行為につき関連共同性が必要であると解されるから、第一審原告甲野の右主張は独自の見解であり、採用できない。」

59  一八二頁七行目の「第八」を「第九」と訂正し、一八三頁一二行目の次に改行して次のとおり付加する。

「これに対し、第一審被告大阪新聞は、①仮に、本件記事(三)によって第一審原告甲野の名誉が毀損されたとしても、その程度については、その発行部数等も含めた社会的影響を十分に考慮する必要があるところ、大阪新聞は、ローカル紙、かつ、夕刊紙であって、発行部数等は、全国紙等と比較して格段に少ないものである、②全国紙の中には、実名は記載していないものの、第一審原告甲野と本件殺人事件との関連を指摘し、同人が別件逮捕されたとの記事を掲載するものもあるところ、本件に関する報道について、実名ではなく仮名にしたからといって、第一審原告甲野を知っている者であれば、右のような記事を読めば第一審原告甲野のことを指していることは明らかであるから、仮に、第一審被告大阪新聞の本件記事(三)によって第一審原告甲野に損害が発生しているのであれば、これらの仮名による報道も相まって第一審原告甲野の社会的評価が低下し、損害の発生があったと認められるから、第一審被告大阪新聞の責任は限定されるべきであって、原判決の損害認定は過大であると主張する。

しかしながら、右①の点については、大阪新聞が、ローカル紙、かつ、夕刊紙であって、発行部数等も全国紙等と比較して少ないものであるとしても、人口の多い大阪府及びその周辺地域において販売されているから(当裁判所に顕著な事実)、相当数の読者がいるものと推認され、本件記事(三)の内容その他原判決挙示の諸般の事情を考慮すれば、原判決の損害認定が過大であるとはいえない。また、右②の点については、前述したとおり、第一審被告大阪新聞の本件記事(三)により名誉毀損が成立し、それにより第一審原告甲野が精神的苦痛を被ったものと認められるところ、以上のように独立して不法行為が成立する以上、第一審被告大阪新聞の責任を限定すべき根拠はないというべきである。」

60  一八四頁一〇行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告甲野は、原判決の認定する損害及びその金額は、法令の解釈を誤り事実を誤認した結果に基づいたものであり、過小であると主張するが、原判決が法令の解釈を誤り事実を誤認したことが認められないことは、前述したとおりである。そして、原判決認定の諸般の事情に鑑みると、損害額が過小であるとはいえない。」

61  一八四頁一一行目の「第九」を「第一〇」と訂正し、一八七頁一一行目の次に改行して次のとおり付加する。

「第一審原告乙川は、①原判決の右①の判示について、Fが松山地方検察庁の廊下で偶然第一審原告乙川とすれ違った際、突嗟に考えておく旨答えたことは、拒否しなかった方に意味があるのであって、第一審原告乙川に弁護をしてもらうつもりがなかったのであれば断るはずであるのに警察官の前でも拒否はしなかったことをみると、夜までの間にFなりに考えて、第一審原告乙川の気質を知っているから、無料で弁護してもらえるし、第一審原告乙川の好意を拒否するよりも接触を持っていた方が第一審原告甲野との関係でも有利になると判断したのではないかと思われる、②原判決の右②の判示について、Fと第一審原告甲野は、○○タクシーをEから取り戻したころから不仲になり、双方から相手の悪口を何回も言ってきていたので、その都度第一審原告乙川が双方に対し悪いところは正し、仲良くやるように指導してやっていたものであり、Fが第一審原告甲野に会社を乗っ取られたと県警へ申し立てたのも、その一つの出来事にすぎないから、それだけで第一審原告乙川に気まずい思いを持つ理由がない、③原判決が右③において、Fが第一審原告乙川に顔を合わせられないとの気持ちがあった旨の証言をしていると判示している点について、右証言は、県警への申立てのことを第一審原告乙川に隠していた状態で逮捕された旨の誤った証言に誘発されたものであり、実際は、aらが第一審原告乙川の事務所へ昭和六三年一二月一日に来所した際、同事務所へ来たのはFから告訴があったためだと聞き、第一審原告乙川がFに電話で確認をした経緯があるから、右申立てについて、第一審原告乙川が知っていることをFも分かっていたのであり、現に、Fは、『第一審原告乙川に顔を合せられないような気持ちはなかった。先生にはお世話になっているから、先生に会えんなんていう気持ちは全然ありません。』と証言している、④原判決が右③において、Fの供述に一貫性がないと判示している点について、Fの証言に一貫性がないことはなく、極めて明確に、第一審原告乙川に弁護を頼むつもりがあり、aに、弁護してもらいたいと言った、これに対し、Yは『弁護してもらう必要はない』と言い、aは『弁護人はいらんのじゃ』と言った旨証言しており、刑事公判においてもほぼ同様の証言をしている等と主張する。

しかしながら、右①の点については、第一審原告乙川の主張を認めるに足りる証拠はなく、同人の憶測の域を出ないというべきである。右②の点については、Fが第一審原告甲野に会社を乗っ取られた旨県警に申告し、前記認定のとおり、県警が捜査を始めるに至ったのであるから、第一審原告乙川に第一審原告甲野の悪口を言うというようなレベルとは異なるというべきであって、第一審原告乙川に気まずい思いを持つのは、極めて自然である。右③の点については、たとえ第一審原告乙川のような出来事があったとしても、第一審原告乙川に知られたことをFが認識したことにより、ますます第一審原告乙川に顔を合せられないような気持ちになったとしても決して不自然とはいえない。右④の点については、原判決指摘の点に加え、右の第一審原告乙川に顔を合せられないような気持ちであったかどうかについても供述が一貫しておらず、原判決が判示する諸事情に照らしても信用できないとした原判決の判断は是認できる。したがって、第一審原告乙川の右主張は、理由がない。」

二  第一審原告らは、原審及び当審において、その他縷々主張するが、右主張並びに本件全証拠を検討しても、右認定判断を左右するものはない。

三  よって、原判決は相当であって、第一審原告ら及び第一審被告大阪新聞の本件控訴並びに第一審被告毎日新聞の本件附帯控訴は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・見満正治、裁判官・辻本利雄、裁判官・角隆博)

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